僕の女装学校生活

玉串 ひとみん

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6.転入生とお泊まり会

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--- シルヴィア視点から ---


学友会からユウへのいじめがあるかと思ったが、今のところは落ち着いていた。隣のユウは、クラスにも徐々に溶け込み始めているが、相変わらず、私とも仲良くしてくれている。


(寝不足だなぁ。今日も夜19:00まで、診察かぁ。そのあと、晩ご飯は何にしよ? 冷蔵庫も空っぽだしなぁ。)


両親から継いだ、自営業の診療所をしているシルヴィアは、回らない頭でうーんと唸っていた。今は授業中で、隣で真面目なユウが、ガリガリとノートをとっていた。


(にしても、可愛いよなぁ。黒髪はつやつやだし、眼も大っきくて、顔は小さい。癖っ毛だけど、それもそれで味出してるんだもん。)


勝手に目の保養にしながら、襲いかかる眠気に、半分目が閉じてくる。


(あぁ、でも、身長も小ちゃいもんなぁ。胸はまだまだね。というより、必要ないレベルだから、ノーブラ? その分、細いしなぁ。でも、めっちゃ筋肉ついてて、凛々しい。今度、腹筋とか、腕とか、太腿とか、触りたいわぁ。)


完璧に眠気でイッてしまっているシルヴィアは、半分よだれを垂らしながら、頭をもたげていく。もはや、眼は閉じてしまっているのに、妄想だけは膨らんでいた。


(そうだ! 私の家でお泊まり会を開きましょ!初めてできた親友だもの。一度、やってみたかったのよね! ついでに、筋肉触れるかも!)


仕事で学校も休みがちなシルヴィアにとって、今までここまで仲良くできた友達はいなかった。だからこそ、期待と共に勝手な夢想が広がっていく。気づくと、本当に夢の中だった。



ギーンゴーンガーンゴーン


「シルヴィ。ほら、次は教室移動だよ。魔法実戦でプールらしいから、着替えないと。」


ユウがチャイムが鳴り終わると、揺すって起こしてくれた。だが、当のユウは見学らしい。おそらく、生理女の子だろう。


「あーあ、ユウの水着姿、見たかったなぁ。絶対にクラスの男子が惚れちゃうよ?」


思ったことを口に出しただけなのだが、心底気分悪そうに顔色を悪くして、首を横に振った。もう、確かにクラスの男子は、君の恋人さんに比べたら、ジャガイモかもしれないけど、その反応はないでしょうに。


「ちなみにさ、ユウって、アラン様とどこまで行ってるの?」


顔を近づけて、耳元で蚊のような声で聞いてみた。聞いた内容が恥ずかしかったのか、可愛く顔を赤らめている。こんな子なら、アラン様が特別に大事にするのもわかる気がした。


「やめてくれよ。そんなんじゃないってば。」


あーあ、照れ隠ししちゃって。可愛い!! 私にとって、ドストライクよ!!


「じゃあさ、いつから知り合いなの?」

「……3年前からかな。」

「へぇ!! 初めてキスされたのは??」

「あいつ、腰軽いから、逢った途端だったけど。」


いきなり王子様が一目惚れパターンですか!? お伽話並みにぶっ飛んでる世界が、彼女とアラン様には広がっているのね!!


「ね、感想聞かせて! どうだったの?」

「いや、いきなり、見知らぬ人にされたら、普通に怖いだろ。情けないけど、ほんと恐怖で身体が動かなかった。」


ああー、そうなのか。どんなにカッコ良くても、現実、いきなりはビックリしちゃうものね。


「ねえねえ、お泊まり会したいんだけど、どう? 頑張って仕事の準備も早めに終わらせちゃうから。」

「大丈夫なのか? さっきも寝てたし、疲れてるだろ? 無理しなくていいぞ。」

「違うの! こういう時は、楽しみな予定ができれば、疲れなんて吹き飛んじゃうんだから!!」


ユウはそんなもんか? と首を傾げながら、まぁシルヴィがいいなら。と言ってくれた。そう、彼女は私を唯一『シルヴィ』と呼んでくれるほど、親しい友達なのだ!!


「でも、まだ僕たち二週間しか経ってないし、そんなに焦らなくてもいいと思うが……。」

「お願いっ! 今週はまだ仕事がそこまで忙しくないけれども、冬になると患者さん増えちゃうから。私、修学旅行とか、仕事とお金不足で行けないし…。」


理由を説明すると、ユウは納得してくれたらしく、深く頷いてくれた。


「ダレンは誘えないのか?」

「だって、彼は男の子じゃん。流石に家に呼べないわ。オオカミだしね。」


若干、ユウが渋柿を食べたような顔をした。だって、そうでしょ? ユウは優しいから平等に扱いたいかもしれないけど、できないものはできないんだから。


「……そうだね、そうだよね。女の子友達と、お泊まり会をシルヴィはしたいんだもんね?」

「そうよ。」


ユウはすぐに顔色を元に戻した。おそらく気のせいだろう。


「なら、今週末だな。またあとで、詳しく話そう。」


プールの横にあるベンチに彼女はちょこんと座った。男子たちが残念そうな視線を送っているのは、気づいていないらしい。ほんとに、鈍感さんよね。


「あれ、ユウ。今日はどうしたの?」


おい、オオカミ男。なんて空気読めないことを言ってるんだ! 生理女の子なんだから、聞いちゃダメでしょ。


「ちょっとね……プールは好きじゃないんだ。」

「好き嫌いでサボるのは良くないよ?」


思わず、話しかけるダレンに後ろから手をかける。彼が驚いたように振り向いた。


「ちょっと! 女子にそういうのを聞くのは、失礼だと思わないの!? バカ。」

「具合が悪いのか、気にしちゃダメか?」

「月の物かもしれないでしょ?」


わかってないようだから、仕方なく口にする。全く、これだから男って奴は……。


「うーん、でも、血の匂いがしなかったから……。本当に具合が悪いのかもって思って。」


愕然として、その人形のように整った顔をもう一度見た。そうだ、狼なんだから、鼻が良くて当然だ……。


「ねぇ、あんたの顔、一度引っ叩いていい?」

「いやだよ。なんで叩かれなきゃいけないのさ。」


ということは、このオオカミ男は、全員の匂いとかも覚えてるから、つまり、体臭の変化とかもわかるんでしょ……プライベートの侵害な気がする。


「二人とも、どうしたんだ?」


ユウがわかってない様子で尋ねる。


「えっと、シルヴィア?がぼくの頬を引っ叩きたいんだって。」

「違うわ。ダレンがあまりにもデリカシーがないから、叱っただけよ。本当に叩くわけないわ。」


端整な顔だもん。ユウとはまた違う、癒しだもの。私なんかが叩けるわけないでしょ? でも、やっぱり卑怯な気がしてならない。


「ダレン、プールはダメなんだ。気にしないで。」

「水が苦手なの?」

「そんなことないよ。……色々と、あるんだ。」


何かを隠すように言うユウ。ほら、やっぱり突っ込んじゃいけない、色々があるんだから。気にかけるのは悪くないが、やり方を間違えれば、傷つけることもあるんだから。


「行くよ、バカ狼。」


彼の肩をぽんぽんと叩いて、離れるように促した。

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