異世界で推しに会ったので全力で守ると決めました。

ロク

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プロローグ

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大小異なる形の石壁が連なる洞窟はじめじめとした空気と仄暗さを漂わせている、水の滴る音は静寂に嫌に響く。石には至る所に魔法撃の痕が見え、激戦の後だと物語る様に天井にはぽっかりと大きな穴が空いていた。瞳を動かすと上には沢山の星空が散りばめられた綺麗な夜空が広がっており、ミクリアの瞳にキラキラと星が映る。


前世にこの場所があったら所謂何か出てきそうなホラー的なスポットとして扱われていたでしょうね、 夏の特番なんかでも出できそうな場所だわ。でもこんな星空が見えるならレナード様とデートとするのも悪くないかしら。
全身に焼ける様な痛みを感じつつ思考の片隅でミクリア・グラークはそんな事をぼんやりと思った。そしてホッと胸を撫で降ろす。



やっと守れたぁーーー・・・。



すっごい頑張った私、これでレナード様は死なない、良かった、大歓喜。




前世大好きだった乙女ゲーム「追憶の果てに」の世界に転生したと気付いたのはゲームの物語が始まる前の12歳の頃。前世に全力でお金を注ぎ込み愛したキャラクターに会える、しかも仮想の中では無く実際にレナードを救済出来るのだと心の底から喜んだ。
レナード・ガリウスはレナードルート以外では必ず闇落ちしたミクリアの義弟スタン・グラークに殺されてしまう。そしてたった今闇落ちの原因ーー、色々あってメンタル弱ってるスタンに漬け込み身体を乗っ取ったクソ悪魔を倒したのだ。可愛い義弟も守れたしレナード様も無事だし、一件落着万事解決。


本人はるんるん気分で倒れているが、闇落ちから開放され倒れる義姉を呆然と佇み見詰めるスタンは息を飲み蒼褪め震えた。それものその筈、レナードを守ると言う本懐を全うし悪魔との激戦を終えたミクリアの身体の傷は酷い物だった、助からないと一目見れば分かる程に。
スタンは事実が受け止め切れず両膝を地面に着く「義姉さん」と喉の奥から声を絞り出すも倒れる細い身体は動かない。聞こえていたミクリアとしては直ぐ様反応したかったのだが指一つ動かせず、なんとか唸り声だけ上げた。スタンは悪魔に身体を乗っ取られてる間も意識はあり一人で自身を助けようとする義姉を見ていた。いつから義姉を姉としてでは無く一人の女性として見ていたが義姉は誰から見ても分かる程に好いている人が居た。叶わない恋と立て続けに起きた不幸に精神を蝕まれ、甘く囁く悪魔と契約を交わしてしまったのだった。


情けない己に怒りが込み上げる、今直ぐにミクリアを抱き締めて好きだった事を伝えたい、しかし原因を作った今の自分にはその権利は無いと伸ばしかけた手を止めた時だった、いつの間にか人が佇んでいた。月明かりが映す相手の名をスタンは紡いだ。



「レナード…。」



瞬間、ミクリアの冷えた身体は温もりに包み込まれ眠気で閉じかけていた瞳をうっすらと開けた。
そこには思いもよらない人物が居た、前世から愛して止まないレナードだ。薄い茶色の髪と翠の瞳を持って此方を見詰めている、しかも至近距離だ。喜びの奇声を発しようとするも声は出ない、もはや自身の都合の良い夢にさえ思えたが幸せなのでこの夢に浸る事にした。喜びをアピールしようとなんとか顔の筋肉を動かし必死にレナードを見詰めた、すると甘く垂れる翠瞳から大粒の涙が溢れミクリアの頬や目元に流れて行き名前を何度も呼ばれた。



もしかして、レナード様ったら私の為に泣いてくれているのかしら?



暖かい水滴を肌に感じ喜びで心が震える、反応したくとも声が出せずにごめんなさい。ゲームだけでは知り得なかった事、触れて初めて分かった事、彼をもっと好きになった事。気持ちを伝えなくとも好きなる喜びを教えてくれて、私の人生を明るくしてくれたレナード様に感謝が絶える事は無かった。

自己満足かもしれないけれど、転生したこの世界でも幸せな日々を送る事が出来たのは貴方のおかげです。


口許だけで声にならない感謝を示した。



ありがとう、と。





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