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1.当たり前の幸せ

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 当たり前の日常は突然終わる。いつその時が自分に訪れるのかは誰も分からない。分かるのは、こうやって当たり前にペンを手に取ることができることが幸せであるということだけだ。

「お待たせしました。小林さん、その後、使ってみてどうでしたか?どこか痛むところや、違和感を感じるところはありますか?」

 診察用の椅子に座る男性に声をかけると、彼は慣れたように義足を取り外しながら首を横に振る。

「いや、はじめは慣れない感じはありましたがその後は全然」

 彼の言葉に私は安堵した。色々と工夫を凝らして作り上げた効果があったようだ。使い初めは中々調整が難しいので彼の足にきちんと馴染むか少し不安だった。

「そうですか。それは良かったです。念のため確認させていただきますね」

 私は取り外された義足を持ち上げながら、問題がないか念入りに確認した。破損している部分がないことを確かめ、彼の足に再び装着する。嵌めた義足にずれがないか確認をした。

「…うん、正常ですね。型もぴったりはまっていますし、ずれることもないでしょう。使っていて気になることがあればいつでもいらしてください」

 私の言葉に彼は朗らかな笑みを浮かべた。よいしょっと椅子から立ち上がると、私に向かって深々と頭を下げる。

「ありがとうございます、先生。これでまた日常が送れます」

「いえ、頭をあげてください。これが私の仕事ですから当然のことをしただけです。その新しい足で小林さんが少しでも明るく充実した日々を送ってくだされば、私はそれで満足です」

 失った足を再生させることは私にはできない。私にできるのは代わりとなる足を作ることだけだ。でも、それで少しでも彼らが失った日常を取り戻せることができるなら、私はとても嬉しいし、もっといいものを届けたいと思える。

「それではありがとうございました」

「いえ、お気を付けて」

 身体を大きく揺らしながら、小林さんは店の外へと歩いていく。その足取りは以前よりもしっかりだ。一生懸命前に向かって進もうとする彼の後ろ姿を見ながら、私は今ある日常に感謝する。

 両足で地面に降り立ち、手で物の感触を確かめ、目で世界の姿を確認する。

 当たり前のようで当たり前ではないもの。この仕事をしているとそれがどんなに幸せなことなのかをつくづくと実感するのだった。

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