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29.王子の後押し
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「いや~、無事にエドゥアール殿との婚約が決まって良かったねぇ」
「はい、お父様」
翌日、私は久々に家に戻るとお父様に昨日の出来事を報告した。私の話を聞いたお父様は嬉しそうに笑みを浮かべると、婚約成立を喜んでくれた。
「…でも、正直驚きました。あんなに婚約を渋っていたエドゥアール様が、今日いきなり婚約のお許しをくださるなんて」
「ああ…それはきっと、殿下のおかげかな」
「殿下の?」
「うん。殿下がエドゥアール殿の心に何やら火をつけたみたいでね。私も詳しくは知らないんだけど。お前と出かける前に私の元に来て、婚約を引き受けるつもりだと話に来てくれたよ」
あ、じゃあお父様は既に婚約のこと知ってたのか。どうりで驚かないはずだ。もっとびっくりするだろうと思ってたのに…。でも、きちんとお父様に許可を得て行動するところ、とっても素敵よね。エドゥアール様って本当にそういうところしっかりしてるわ。
それにしても殿下、一体エドゥアール様に何をしたんだろう。あんなに頑なだったエドゥアール様の気持ちを一瞬で動かしてしまうなんて。流石はお父様が認める腹黒王子…。半端ない手腕をお持ちだわ。
「まぁ、とにかく夢が叶ってよかったじゃないか。私も安心したよ」
「うん。どこぞの貴族の第3婦人とかにならなくてすみそうなところには安心したわ。…でも、エドゥアール様の心までは引き寄せられなかったの」
「エリィ…」
そう、まだ肝心の心は奪えていないのだ。この婚約はまだこの恋の始まりに過ぎない。
「だからね、これからも全力でエドゥアールにアタックし続けるわ!心の底から私のこと好きになってもらえるように、私、これからも頑張る!」
私がそうガッツポーズをすると、お父様は朗らかに笑って言った。
「そうだね。夫婦が長く幸せに暮らしていくために必要なのは、お互いを理解しあう努力なんだ。お前なら、きっと理想的な家庭を築けるよ」
「ありがとう、お父様」
とりあえずは、2日後の社交界を成功させることからよね。張り切って準備しなきゃ!
お父様の部屋を後にした私は、社交界の準備についてナタリーと話し合うため、彼女がいる部屋へと急ぐのだった。
※※※
「やぁ、エドゥアール殿。聞いたよ。随分とエリワイド嬢との婚約を渋っているんだってね」
「殿下…」
執務室を出てしばらく歩いた廊下の突き当たりで、レオナルドは窓から外の様子を眺めているエドゥアールを見つけた。これからエドゥアールに会いに行こうと思っていたレオナルドは、これ幸いと彼に近づくとそう声をかけた。
「なぜそこまで慎重に?今まで貴方に迫ってきた女性達と比べて、エリワイド嬢はこれ以上にないほど条件の揃った女性だと思うけど?」
エドゥアールは何も言わない。というか、言えない事情があるようだった。長年付き合ってきた勘で、これ以上聞いても話してはくれないだろうと悟ったレオナルドは聞き出すのは諦めた。
「まぁ、別に無理に聞き出すつもりはないけどね。ただエリワイド嬢はとてもモテるんだ。本人は気づいていないけどね」
エドゥアールは無言でレオナルドの話を聞いていた。だからなんだという表情で、レオナルドを見つめている。
「コンサーレ宰相が娘の気持ちを尊重して縁談を断っているから、エリワイド嬢のもとに縁談がいかないだけで、エリワイド嬢を狙っている人は意外と多いよ?」
と、ここまで言って周囲に人がいないことを確認したレオナルドは、エドゥアールに近づくと囁くように呟いた。
「ここからは私の独り言なんだけど、今朝ベルバッハ皇帝からエリワイド嬢を側室に迎えたいという申し出があったんだ。向こうの国は多妻制だからね。そうすればエリワイド嬢はアデライト皇女と義姉妹になれるだろう?アデライト皇女としても、エドゥアール殿ではない他の貴族にとられるくらいなら、兄である皇帝のもとにぜひ来て欲しいと思っているようだ」
レオナルドの言葉にエドゥアールは僅かに目を見開き、レオナルドに視線を向ける。それでどう返答したのだと尋ねているようだった。
「私はエリワイド嬢の友人として、彼女の気持ちを尊重したい。だから、彼女の返答次第だと皇帝には返した」
レオナルドにとってエリワイドは大切な友人だ。いくら相手が他国の皇帝だろうと、勝手に友人を売ることはしたくない。
「まだエリワイド嬢にはこの話はしてないよ。でも、ずっと返答を引き伸ばしにするわけにはいかない。向こうも2日後の社交界が終わったら帰ってしまうからね」
ベルバッハとの友好が結ばれたということをこの国の貴族たちに示すため、皇帝には今度の社交界に出てもらうようお願いしている。
「エリワイド嬢だって、どこぞの貴族の第3夫人になるくらいなら、アデライト皇女のもとに行きたがるはずだ。今の彼女にこの話をしたら、きっと揺らぐだろうね。肝心の想い人には未だに回答が貰えていないのだから」
そう言ったレオナルドはパッとエドゥアールから離れた。
「さて、私の独り言は終わりだ。…ああ、別にこれはエリワイド嬢から説得を頼まれたとかそういうのではないよ。エドゥアール殿には幼い頃から世話になっているからね。私としても幸せになってほしいのさ」
ここまで言えばエドゥアールはきっとエリワイド嬢との婚約に踏み切るだろう。レオナルドにはそんな確信があった。
「…おっと、もうこんな時間か。そろそろ私は行かなくては。じゃあね、エドゥアール殿。呼び止めてすまなかった」
「いえ…」
その後、エドゥアールがエリワイド嬢との婚約を正式に結んだと人伝に聞いたレオナルドは、密かに笑みを浮かべるのであった。
「はい、お父様」
翌日、私は久々に家に戻るとお父様に昨日の出来事を報告した。私の話を聞いたお父様は嬉しそうに笑みを浮かべると、婚約成立を喜んでくれた。
「…でも、正直驚きました。あんなに婚約を渋っていたエドゥアール様が、今日いきなり婚約のお許しをくださるなんて」
「ああ…それはきっと、殿下のおかげかな」
「殿下の?」
「うん。殿下がエドゥアール殿の心に何やら火をつけたみたいでね。私も詳しくは知らないんだけど。お前と出かける前に私の元に来て、婚約を引き受けるつもりだと話に来てくれたよ」
あ、じゃあお父様は既に婚約のこと知ってたのか。どうりで驚かないはずだ。もっとびっくりするだろうと思ってたのに…。でも、きちんとお父様に許可を得て行動するところ、とっても素敵よね。エドゥアール様って本当にそういうところしっかりしてるわ。
それにしても殿下、一体エドゥアール様に何をしたんだろう。あんなに頑なだったエドゥアール様の気持ちを一瞬で動かしてしまうなんて。流石はお父様が認める腹黒王子…。半端ない手腕をお持ちだわ。
「まぁ、とにかく夢が叶ってよかったじゃないか。私も安心したよ」
「うん。どこぞの貴族の第3婦人とかにならなくてすみそうなところには安心したわ。…でも、エドゥアール様の心までは引き寄せられなかったの」
「エリィ…」
そう、まだ肝心の心は奪えていないのだ。この婚約はまだこの恋の始まりに過ぎない。
「だからね、これからも全力でエドゥアールにアタックし続けるわ!心の底から私のこと好きになってもらえるように、私、これからも頑張る!」
私がそうガッツポーズをすると、お父様は朗らかに笑って言った。
「そうだね。夫婦が長く幸せに暮らしていくために必要なのは、お互いを理解しあう努力なんだ。お前なら、きっと理想的な家庭を築けるよ」
「ありがとう、お父様」
とりあえずは、2日後の社交界を成功させることからよね。張り切って準備しなきゃ!
お父様の部屋を後にした私は、社交界の準備についてナタリーと話し合うため、彼女がいる部屋へと急ぐのだった。
※※※
「やぁ、エドゥアール殿。聞いたよ。随分とエリワイド嬢との婚約を渋っているんだってね」
「殿下…」
執務室を出てしばらく歩いた廊下の突き当たりで、レオナルドは窓から外の様子を眺めているエドゥアールを見つけた。これからエドゥアールに会いに行こうと思っていたレオナルドは、これ幸いと彼に近づくとそう声をかけた。
「なぜそこまで慎重に?今まで貴方に迫ってきた女性達と比べて、エリワイド嬢はこれ以上にないほど条件の揃った女性だと思うけど?」
エドゥアールは何も言わない。というか、言えない事情があるようだった。長年付き合ってきた勘で、これ以上聞いても話してはくれないだろうと悟ったレオナルドは聞き出すのは諦めた。
「まぁ、別に無理に聞き出すつもりはないけどね。ただエリワイド嬢はとてもモテるんだ。本人は気づいていないけどね」
エドゥアールは無言でレオナルドの話を聞いていた。だからなんだという表情で、レオナルドを見つめている。
「コンサーレ宰相が娘の気持ちを尊重して縁談を断っているから、エリワイド嬢のもとに縁談がいかないだけで、エリワイド嬢を狙っている人は意外と多いよ?」
と、ここまで言って周囲に人がいないことを確認したレオナルドは、エドゥアールに近づくと囁くように呟いた。
「ここからは私の独り言なんだけど、今朝ベルバッハ皇帝からエリワイド嬢を側室に迎えたいという申し出があったんだ。向こうの国は多妻制だからね。そうすればエリワイド嬢はアデライト皇女と義姉妹になれるだろう?アデライト皇女としても、エドゥアール殿ではない他の貴族にとられるくらいなら、兄である皇帝のもとにぜひ来て欲しいと思っているようだ」
レオナルドの言葉にエドゥアールは僅かに目を見開き、レオナルドに視線を向ける。それでどう返答したのだと尋ねているようだった。
「私はエリワイド嬢の友人として、彼女の気持ちを尊重したい。だから、彼女の返答次第だと皇帝には返した」
レオナルドにとってエリワイドは大切な友人だ。いくら相手が他国の皇帝だろうと、勝手に友人を売ることはしたくない。
「まだエリワイド嬢にはこの話はしてないよ。でも、ずっと返答を引き伸ばしにするわけにはいかない。向こうも2日後の社交界が終わったら帰ってしまうからね」
ベルバッハとの友好が結ばれたということをこの国の貴族たちに示すため、皇帝には今度の社交界に出てもらうようお願いしている。
「エリワイド嬢だって、どこぞの貴族の第3夫人になるくらいなら、アデライト皇女のもとに行きたがるはずだ。今の彼女にこの話をしたら、きっと揺らぐだろうね。肝心の想い人には未だに回答が貰えていないのだから」
そう言ったレオナルドはパッとエドゥアールから離れた。
「さて、私の独り言は終わりだ。…ああ、別にこれはエリワイド嬢から説得を頼まれたとかそういうのではないよ。エドゥアール殿には幼い頃から世話になっているからね。私としても幸せになってほしいのさ」
ここまで言えばエドゥアールはきっとエリワイド嬢との婚約に踏み切るだろう。レオナルドにはそんな確信があった。
「…おっと、もうこんな時間か。そろそろ私は行かなくては。じゃあね、エドゥアール殿。呼び止めてすまなかった」
「いえ…」
その後、エドゥアールがエリワイド嬢との婚約を正式に結んだと人伝に聞いたレオナルドは、密かに笑みを浮かべるのであった。
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