枯れ専で何が悪い!

嘉ノ海祈

文字の大きさ
上 下
24 / 32

24.念願の再会

しおりを挟む
 羽を広げた飛竜は王宮の庭にスッと着地をした。一瞬身体がグラッと傾き、落ちるかと思ったがエドゥアール様の鍛えられた腕に抑えられたことにより、何とか持ち堪えた。

 エドゥアール様の手を借りながら何とか王宮の庭に飛び降りた私。さほど長い時間飛行していたわけではないが、何だか地面の感触が久しぶりに感じてほっとした。

「おかえり、エドゥアール、エリワイド嬢。何やら大変だったみたいだね」

 無事に全員が飛竜から地面へと飛び降りたところで、立派な服に身を包んだ壮年の男性が声をかけてきた。暗闇で顔が見えづらかったが、月明かりに照らされたその顔を見て、その場にいた一同はサッと姿勢を正すと、彼に向かって頭を垂れた。

「陛下。敵の侵入を防げず申し訳ありません。皇女殿下は無事にお連れいたしました」

 エドゥアール様の言葉に、陛下はウォルターの隣にいたアディに視線を向ける。アディは一歩前に足を踏み出すと、落ち着いた様子で挨拶をした。

「お初にお目にかかります。ブランセント国王陛下。ベルバッハ第一皇女、アデライト・ベルバッハです。この度は私情でこの国を巻き込んでしまい大変申し訳ありませんでした」

 最初は何かを見極めるようにじっとアディを見つめていた陛下であったが、アディの挨拶が終わる頃にはふっと表情を和らげた。

「頭を上げてくだされ、アデライト殿。王族もまた人の子。兄弟喧嘩はするものです。今回は結果として丸く収まったことですし、何よりうちの宰相の娘の大切なご友人ですからな。お咎めする気はございませんよ」
「寛大なお心に感謝申し上げます」

 よかった。特にアディが咎められることはなさそうだ。…それにしてもさっきからずっと陛下の後ろの方でソワソワしている男性は一体誰だろう。見たことがないなぁ。心なしか誰かに似ているような気はするんだけど…。

「はっはっは。君のお兄さんが早く君と話したくてうずうずしているようだ。さぁ、ジークフリード殿。貴方の妹殿だ」
「アディ!」
「ジークお兄さま!?」

 なんと、この人がアディのお兄さんであり、現ベルバッハの皇帝だったのか。うわぁ、凄い美形。アディと並ぶととてもいい画になる。

 3年越しの再会を熱い抱擁で喜ぶように、アディはパッと腕を広げた皇帝の胸の中に飛び込んだ。

「襲われたと聞いて心配したよ。…ああ、無事で良かった。…もうお前には会えないのかと…」
「お兄さま…」

 王宮の広い庭に二人の声が響き渡る。私達は2人の兄妹の再会を静かに見守っていた。

「ずっと後悔していたよ。あの時、お前の気持ちを受け止めてやれなかったことを」
「私の方こそごめんなさい。一時の感情に任せて家出をしてしまって。…心配をかけてしまって」
「いや、いいんだ。こうして生きて戻ってきてくれた。それだけで十分だ」

 無事にアディがお兄さんと仲直りできたようで本当に良かった。友達は誰とでもなれるけど、家族はその人としかなれないからね。たった1人の血の繋がったお兄さん。ずっと仲違いしたまま会えないなんて、悲しいもの。

「ブルーナイト卿、妹を守ってくれたこと感謝をする」

 アディとの抱擁を終えた皇帝は、エドゥアール様に向き合うとそうお礼を述べた。エドゥアール様はいえと短く言葉を発すると、私の方に視線を向けた。

「礼は彼女に。3年前に皇女殿下を保護したのも、こうして王宮まで皇女殿下をお連れすることができたのも、全て彼女のおかげですから」
「そうか」

 エドゥアール様の言葉に皇帝は頷くと、私の方へ視線を向けた。まさか、こんな形で紹介されると思っていなかった私は内心驚きながらも、すっと姿勢を正し皇帝陛下に向き合った。

「貴方のことはアディから聞いている。妹の命を助けてくれたこと心より感謝を申し上げる。君が保護してくれていなければ、王宮暮らしで世間的知識のない妹がこんな風に生きてはいられなかっただろう」
「いえ、私の方のこそアディ…アデライト皇女殿下に心を救われましたから。同じ趣味を持つ友達と出会えたことで、私は私のままでいいんだと自信が持てたんです。こうしてアデライト様と過ごすことができて感謝しています」

 本当にアディと友達になれたのは物凄い幸運だった。本来ならアディと私は決して交じり合うことのない世界にいるのだ。アディが家出をせず、私と出会うことがなければ、私は今のように自信をもってイケオジが好きだと豪語することはできなかっただろう。今のジェントルグシュマーク商会だって、最初は令嬢である自分がこんなことをしていて本当にいいのかと悩んでいた。でもアディが素晴らしいことだと、自信をもって取り組んでいいことなんだと教えてくれたおかげで続けることができたのだ。

 私がそう感謝を述べると、皇帝陛下は何やら感心したような声をあげて言った。 
 
「ふむ、アディはいい友人を持ったようだな。君にはアディを救ってくれたお礼をしたい。何か、希望はあるか?」

 お礼…別にお礼を言われるようなことでもないし、何も要らないんだけどな。きっと皇帝陛下からしたら何かお礼をしないと気がすまないんだろうな。…どうしよう。欲しいもの、欲しいもの…あ、あった!

「…こんなことを申し上げるのは非常に恐れ多いのですが」
「気にするな。話してみてくれ」
「先ほど申し上げた通り、アデライト様は私にとって大切な友人なんです。身分が違うということは重々承知ですが、これからも変わらず友人としてお話する機会をいただきたく存じます。…お許しいただけますか?」
「勿論だ。歓迎しよう。寧ろ、それはアディが望んでいることだろうしな」

 そう言って皇帝陛下がアディへと視線を向けると、アディも笑顔で頷いた。よかった。アディとはこれからもイケオジ話ができそうだ。

「…しかし、それでは礼としては物足りないな。他にないのか?」

 …ないんだよな。別に。戦争をしないでほしいとかそんな願いはあるけど、それは皇帝の一存でどうにかなる問題でもないだろうし、約束なんてできないだろうしなぁ。

「それならベルバッハに戻った後、社交界でエリィの商会の服をお兄さまが身に着けてあげるといいですわ」
「エリワイド殿の商会の服をか?」
「ええ。お兄さまが身に着ければ自然とうちの貴族もエリィの商会の服に興味をもつでしょう?いい宣伝になりますわ」
「なるほど。それはいいかもしれないな」

 え、いやいやいや。気持ちはありがたいけど、そこまでしてもらうわけには―

「そうすればベルバッハにも貴方の紳士服を身にまとったイケオジたちが増えるわよ」
「ぜひそれでお願いします」

 アディの囁きで私は即座に頷いた。自分が作った服に身を包んだベルバッハのイケオジ、ぜひとも拝みたい。

「分かった。では後ほど、貴方の商会で服を購入することにしよう」
「その必要はありませんわ。既にお兄さまのためにエリィに服を注文してありますの。もう少しで出来上がるとのことですから、楽しみにしていてくださいな」
「アディが私のために服を!?…ああ、なんて素晴らしいんだ。わかった。是非ともそれを着よう」

 さっきから思っていたけど、アディと接している時だけキャラがちょっと変わるなぁこの人。本当にアディのことが好きでしょうがないんだろうね。アディと話している時だけ表情筋がゆるっゆるだし、多分人目があるからクールを装ってはいるんだろうけど装いきれていないだよなぁ。

「さて、積もる話もあるだろうが皆疲れているだろう。続きは明日にするとして、今日は各自用意された部屋で休むといい」

 国王陛下の言葉に全員が頷いた。確かに疲れた。夜中に起こされ、訳も分からないまま生死の狭間で逃げてきたのだから当然だ。ようやく事態が落ち着いてきたこともあり、忘れていた眠気が再び戻って来た。

「おやすみ、エリィ」
「おやすみ、アディ」

 アディと別れ用意された部屋でベッドにダイブした私は、一瞬で眠りに落ちたのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...