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夫が遺してくれたもの

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―あれから一年が経った。時が経つのは本当に早いと思う。私は墓碑の前に置かれた花々を見て温かい気持ちになった。きっと、私が来る前に彼を訪問し花を添えてくれた人たちがいたのだろう。死後もなお、こうして自分を覚えてくれている人が沢山いる彼は本当に幸せものだ。

 私は自分が持ってきた花を墓石の花に加えた。彼が亡くなって、私は改めて気づかされたことが多々あった。彼が傍にいて自分を支えてくれていたことが、どれだけ幸せで、どれだけ心強かったことか。彼がいてくれたからこそ、今の自分があり、こうやって様々な困難を乗り越えてこれたのだ。

 もう何度、彼を夢で見たことか。自分の傍らで優しい眼差しを向けながら話を聞いてくれる彼の姿を、幾度と思い浮かべたかことか。もう二度と聞くことのできない彼の声を、もう二度と感じることのできない彼の温もりをどれほど求め、シーツを涙で濡らしたことか。

 本当は今すぐにでも彼に会いに行きたい。この命を投げ出してしまえたらどれほどいいだろうかと考えたことも多くあった。でも、今は違う。彼は最後に、私に大切なものを残してくれたから。

「かけがえのない宝物をありがとう。貴方の分まで、私は生きる。だから、もう少し待っていてね。いつか役目を終えた時、その時は一緒に貴方の傍で静かに眠りたい。だからそれまでは、天から私達を見守っていて」

 その時、腕の中で眠っていた息子がおぎゃあと声をあげる。私は息子を抱えなおし、よしよしとなだめた。

 彼が還ってくることはもう二度とない。でも、彼の存在はいつも私の中にある。いつも私を支えてくれている。きっと今もこれからも、私達のことを天から見守ってくれるだろう。優しい笑みを浮かべながら。

 きっとこの子と歩む人生は簡単ではないだろう。険しい山を登らなければならない日も、荒れ果てた海を渡らなければならない日もあるかもしれない。でも、彼の存在が私を支えてくれるから。彼の力で私は自分を超えて行けるから。

―だからどうか、あなたの傍に行くその時までは、そこから静かに見守っていて。

 見上げた空には大きな虹がかかっていた。腕の中の息子にそれを見せると彼は嬉しそうに笑った。
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