あなたを許せるまで

まめしば

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19.安寧

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 フィーネが公爵家に保護されてから、1週間経っていた。
 1週間の間にフィーネは何度か目覚めたが、怪我による発熱と麻薬の作用で意識がはっきりせず会話出来る状態ではなかった。
 右足も一時期は危惧したが、なんとか快方に向かっている。
 アルバートやアランも一日に何度もフィーネの様子を確認しに来ていたが、本人とは会話はまだ出来ていない。
 アランはフィーネの状態を初めて確認した際は、泣き叫んでフィーネに謝り続けていた。
 喧嘩して碌に会話せず別れてしまったのを激しく後悔しているようだ。

 それから1週間も経つとフィーネの状態は徐々に安定して来た。
 まず何日も続いていた高熱がやっと引き、呼吸も安定する。体重は元々軽かったが更に瘦せ細ってしまい、病的な程になってしまった。
 しかし意識がはっきりしてくれば、少しずつ食事も取れるようになるだろうとの事だ。
 幸いだったのは、もし長期間麻薬の接種を続けていれば咀嚼や嚥下すら厳しく、食事が取れないようになっていたかもしれないとの事で、その部分についてはそうならなくて心底安堵したアルバートだった。

 正直、アルバートはこのままフィーネたちを公爵家で生活させる気でいた。
 アランには治るまでと伝えていたが、手放す気にはもうなれなかった。
 第一あんな治安の悪い場所にフィーネたち母子を住まわせるなど考えられなかったのだ。

 一度目は命を救ってもらいながらもこの手で壊し、手放してしまった。

 二度目はフィーネを尊重する振りをしながら、形振り構わず行動できずフィーネを傷付けてしまった。

 もう二度とそのような目には合わせたくない。
 大事に大事に守りたい、と思っていた。


「おはようございます。公爵様」

 アランが食堂へ侍女を伴い入ってきた。

「ああ。おはよう。よく眠れたかい?」
「はい。最初はふかふかのベッドにびっくりして中々寝付けなかったんですけど、今はぐっすりです!」
「ふふふ。それは良かった。席に着きなさい。朝食にしよう」

 アランは侍女の補助で公爵の近くの椅子に座り、いただきますを言った。
 その言葉にアルバートは最初は驚いたものだ。
 公爵家に来た当初、アルバートはその言葉におや?と思い聞いてみた。

「アラン、それは?」
「え?いただきますですか?」
「ああ。初めて聞いたんだ。意味を教えてくれるかい?」
「えっと、母上に教えて頂いたんですけど・・・食べ物や、作ってくれた人々に感謝しますって意味らしいです。僕、ずっと母上とそう言っていたので癖で言ってしまいました。ごめんなさい」
「いや、咎めるために聞いたのではないよ。素晴らしい言葉だね。私も使うとしよう」
「・・・はい!」

 アルバートはにこにこ笑うアランを見て微笑んだ。
 貴族の食卓では特にそのような声かけはしない。
 屋敷の主人が手を付けて初めて食事が始まるためだ。

 それ以来、二人でいただきますをしてから食事を取るようになった。
 それは、使用人たちからも暖かく見られていた。

「このゼリー美味しいです!母上に食べて頂きたいです」
「そうだね。ロイド、後でフィーネの元に同じ物を」
「畏まりました」

 側に控えていたロイドと呼ばれる執事が返事をする。彼はいつもアルバートに付き添っている側近だ。
 フィーネは未だ固形物が食べられず、ペースト状の物や果実水など軟らかい食事を取らせていた。
 ゼリーならば食べられるだろう。

「ゼリーか。果実系もいいが、野菜のゼリーなどがあればペーストよりも喉ごしが良さそうだな。厨房に試作するように伝えてくれ」
「そのように致しましょう」

 ロイドは軽く頷き、さっそく下働きのメイドに伝えた。

 この屋敷にいる者たちは皆フィーネの素性を知っている。
 昔、アルバートの命を救った事も。
 なのでフィーネを連れて帰って来た時も、特に反対する者はいなかった。
 アランという子持ちではあったが、そのアランも5歳という幼児でありながら聡明でまた可愛らしかった。
 同情や好意が向くのも時間はかからなかった。

 あらかた食事を終え、二人は仲良く席を立った。

「では、フィーネの元に行くとしようか」
「はい!」


 二人の姿は使用人からみて、仲の良い親子のようだった。






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