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暫く馬車が走り続け、公爵家へ着く頃、フィーネの顔色は更に悪くなっていた。
アルバートも焦燥感が募るが今自分に出来る事はない。
それが恐ろしく歯痒かった。
アルバートは公爵家の屋敷の目の前に馬車が止まると、すぐにフィーネを抱き上げた。
「お帰りなさいませ。医師と錬金術師を手配し待機しております」
「ご苦労。すぐに部屋に案内しろ」
アルバートはそのままフィーネを屋敷の中へ運び、用意された部屋のベッドに横たわらせた。
医師たちはフィーネの状態を確認するとテキパキと処置をしていくが、表情は皆痛ましげだ。
「錬金術師はどうした」
「あ、それが・・・」
「何か問題が?」
「お呼びしていた術師がいたのですが、あの方が帰してしまい・・・」
「どういう事だ」
錬金術師は麻薬なども取り扱う。
解毒には必ず必要な存在だ。
「わしにやらせとくれ」
突然そう言って部屋の入口から入ってきたのは、一人の老婆だった。
スラムの人間の恰好だったが有無を言わせない迫力のある人物。
アルバートもよく知る人物だった。
「・・・・貴女は」
「これでもこの子の世話をずっとしていたんだ。他の人間に任せるなどとんでもないわ」
「感謝致します。アリステラ総帥。お会いできて幸栄です」
「その名は呼ぶんじゃないよ。この子らにはババ様で通っとるんだ。名前で呼んだら容赦しないよ」
「承知しました」
ふっと笑って了承するアルバートにババ様ことアリステラはふんっと笑った。
「ずいぶん痛めつけられたね。麻薬の禁断症状か。すぐ取り掛かる」
「お願い致します」
アリステラの護衛がテキパキとカバンから解毒に必要な道具を用意していく。
その間、アリステラはフィーネの呼気を確認し、脈も診た。
「アイリスの眠りじゃないか。また厄介なものを・・・」
「それは?」
「こいつは簡単に解毒出来ないよ。完全に抜け切るまで半年はかかる」
「そんなに時間がかかるのですか!?」
アリステラの言葉にアルバートは驚愕する。
普通の麻薬ならばそこまで時間はかからない。
そんなに珍しい麻薬なのか。
「この麻薬は弛緩の麻薬とも呼ばれているのさ。文字通り身体中から力を奪われる。それこそ生命活動にまで影響する劇薬さ」
「そんな麻薬が・・・」
「最近開発されたんだ。お前さんが知らなくても不思議じゃない。まだ出回っている数自体少ないからね」
「フィーネは、大丈夫ですか」
「大丈夫かどうかは運だね。どっかの錬金馬鹿が面白半分で調合して副産物的に出来た麻薬さ。まだちゃんとした解毒薬がない」
アリステラは錬金術師塔の総帥だ。こんな恰好をしているが、世界最高峰の集団のトップだった。
そんな人物が何故スラムにいるのかは今は関係ないので割愛する。
まぁ、そのアリステラを持ってしても解毒が難しいという。
これでは他の錬金術師など役に立たないだろう。
「なんとか治して頂けますか。何としても」
「うるさい。わかっておるわ。フィーネは今すぐ死ぬという状態ではない。今は禁断症状が出かかっているから、敢えてアイリスの眠りを少量与える。いきなり麻薬を絶っても命を落としかねないからね」
その事実にアルバートは憤りをどこにぶつけていいか分らなかった。
「わしも、このアイリスの眠りの解毒薬を出来る限り早く開発する。それまでは様々な対処療法的な薬類で繋ぐしかない」
「わかりました・・・。フィーネは、フィーネは目覚めますか?」
「ずっと眠ったままというわけではない。今は身体的なダメージも深く、眠っているが時期に目覚めるだろう。しかし日常生活では一人で行動出来なくなるのと、睡眠時間が人より長くなるくらいさ」
「それは・・・」
思ったよりも深刻な状況だ。
日常生活もままならないとは。
「とりあえず、わしは治療に専念するから邪魔だけはしないどくれ」
「よろしく・・・お願いします」
アルバートはアリステラに頭を深く下げた。
アリステラはもうフィーネに向き合っておりこちらは見ていない。
「お前さん・・・坊主が心配するだろうが。このバカタレが。早く目覚めておやり」
優しい目をしてアリステラはフィーネの頭を一撫でした。
◇◇◇
「・・・・公爵様!!母上は!母上は大丈夫なのですか!?」
別室に移動した際、向こうからアランが駆け寄って来た。
フィーネを連れ帰った際、アランに見せるにはあまりにフィーネの状態が良くなかった為、ショックを受けさせないように会わせなかった。
それでも心配だったのだろう。
侍女に付き添われながらも、真っ青な顔でアルバートに縋っている姿は周りの哀れみを誘った。
「大丈夫だ。一命は取り留めているよ。ただ、今君の母上は少し疲れているんだ。良くなるまでちょっと時間がかかる」
「・・・そんなっ・・・」
「ババ様も今懸命に母上が良くなるように治療してくれているんだ。もちろん私も母上が良くなるように最大限協力しよう。アランも一緒にがんばってくれるかい?」
「ババ様が?」
「そうだ。ババ様は君たち親子がよく知っているだろう?心配しなくて大丈夫だ。あの人の腕は確かだからね」
何故ババ様がとは一瞬思ったが、護衛がいた事とか何か色々秘密があるのだろうとアランは察し、それ以上は聞かなかった。
何よりも母上が良くなるのなら、なんだっていい。
「それで、アラン。少し君に話があるんだ」
「何でしょうか?」
アルバートはアランをソファーに誘導し、座らせ自らも向かい側のソファに腰かけた。
直ぐに侍女が二人分の飲み物を用意し、退出していく。
「君の母上は暫く絶対安静になる。少なくとも半年は休ませなければならないと思う。そこでだ。提案なんだが、母上が良くなるまでこの公爵家で面倒を見させてくれないだろうか?」
「公爵家で、ですか?」
「そうだ。私は昔、君の母上にとても世話になったんだ。その恩を返したいというのもある。いや・・・正直に話そう。私は君の母上をずっと気にかけていたんだ。何か力になれるなら、力になりたい。いいだろうか」
アルバートはアランの目を真っ直ぐ見て話した。
アランはそんな父親の顔をじっと見た。
「・・・母上をお願いします」
「・・良かった。アラン、君の面倒も見させてくれ。君たち親子の内情を調べらせてもらったんだが、君の父親はいないんだろう?母子だけだと聞いた。せめて母上が良くなるまでで構わない。いいかな」
「・・・・・・はい」
アランは複雑な顔でアルバートを見た。
目の前にいるこの人が恐らく僕の父親だろう。
どうして、父上は僕の存在を知らないのだろう。
母上は隠していた?
何故?
そんな疑問が沸いたが、アランはアルバートに何も言えなかった。
アルバートも焦燥感が募るが今自分に出来る事はない。
それが恐ろしく歯痒かった。
アルバートは公爵家の屋敷の目の前に馬車が止まると、すぐにフィーネを抱き上げた。
「お帰りなさいませ。医師と錬金術師を手配し待機しております」
「ご苦労。すぐに部屋に案内しろ」
アルバートはそのままフィーネを屋敷の中へ運び、用意された部屋のベッドに横たわらせた。
医師たちはフィーネの状態を確認するとテキパキと処置をしていくが、表情は皆痛ましげだ。
「錬金術師はどうした」
「あ、それが・・・」
「何か問題が?」
「お呼びしていた術師がいたのですが、あの方が帰してしまい・・・」
「どういう事だ」
錬金術師は麻薬なども取り扱う。
解毒には必ず必要な存在だ。
「わしにやらせとくれ」
突然そう言って部屋の入口から入ってきたのは、一人の老婆だった。
スラムの人間の恰好だったが有無を言わせない迫力のある人物。
アルバートもよく知る人物だった。
「・・・・貴女は」
「これでもこの子の世話をずっとしていたんだ。他の人間に任せるなどとんでもないわ」
「感謝致します。アリステラ総帥。お会いできて幸栄です」
「その名は呼ぶんじゃないよ。この子らにはババ様で通っとるんだ。名前で呼んだら容赦しないよ」
「承知しました」
ふっと笑って了承するアルバートにババ様ことアリステラはふんっと笑った。
「ずいぶん痛めつけられたね。麻薬の禁断症状か。すぐ取り掛かる」
「お願い致します」
アリステラの護衛がテキパキとカバンから解毒に必要な道具を用意していく。
その間、アリステラはフィーネの呼気を確認し、脈も診た。
「アイリスの眠りじゃないか。また厄介なものを・・・」
「それは?」
「こいつは簡単に解毒出来ないよ。完全に抜け切るまで半年はかかる」
「そんなに時間がかかるのですか!?」
アリステラの言葉にアルバートは驚愕する。
普通の麻薬ならばそこまで時間はかからない。
そんなに珍しい麻薬なのか。
「この麻薬は弛緩の麻薬とも呼ばれているのさ。文字通り身体中から力を奪われる。それこそ生命活動にまで影響する劇薬さ」
「そんな麻薬が・・・」
「最近開発されたんだ。お前さんが知らなくても不思議じゃない。まだ出回っている数自体少ないからね」
「フィーネは、大丈夫ですか」
「大丈夫かどうかは運だね。どっかの錬金馬鹿が面白半分で調合して副産物的に出来た麻薬さ。まだちゃんとした解毒薬がない」
アリステラは錬金術師塔の総帥だ。こんな恰好をしているが、世界最高峰の集団のトップだった。
そんな人物が何故スラムにいるのかは今は関係ないので割愛する。
まぁ、そのアリステラを持ってしても解毒が難しいという。
これでは他の錬金術師など役に立たないだろう。
「なんとか治して頂けますか。何としても」
「うるさい。わかっておるわ。フィーネは今すぐ死ぬという状態ではない。今は禁断症状が出かかっているから、敢えてアイリスの眠りを少量与える。いきなり麻薬を絶っても命を落としかねないからね」
その事実にアルバートは憤りをどこにぶつけていいか分らなかった。
「わしも、このアイリスの眠りの解毒薬を出来る限り早く開発する。それまでは様々な対処療法的な薬類で繋ぐしかない」
「わかりました・・・。フィーネは、フィーネは目覚めますか?」
「ずっと眠ったままというわけではない。今は身体的なダメージも深く、眠っているが時期に目覚めるだろう。しかし日常生活では一人で行動出来なくなるのと、睡眠時間が人より長くなるくらいさ」
「それは・・・」
思ったよりも深刻な状況だ。
日常生活もままならないとは。
「とりあえず、わしは治療に専念するから邪魔だけはしないどくれ」
「よろしく・・・お願いします」
アルバートはアリステラに頭を深く下げた。
アリステラはもうフィーネに向き合っておりこちらは見ていない。
「お前さん・・・坊主が心配するだろうが。このバカタレが。早く目覚めておやり」
優しい目をしてアリステラはフィーネの頭を一撫でした。
◇◇◇
「・・・・公爵様!!母上は!母上は大丈夫なのですか!?」
別室に移動した際、向こうからアランが駆け寄って来た。
フィーネを連れ帰った際、アランに見せるにはあまりにフィーネの状態が良くなかった為、ショックを受けさせないように会わせなかった。
それでも心配だったのだろう。
侍女に付き添われながらも、真っ青な顔でアルバートに縋っている姿は周りの哀れみを誘った。
「大丈夫だ。一命は取り留めているよ。ただ、今君の母上は少し疲れているんだ。良くなるまでちょっと時間がかかる」
「・・・そんなっ・・・」
「ババ様も今懸命に母上が良くなるように治療してくれているんだ。もちろん私も母上が良くなるように最大限協力しよう。アランも一緒にがんばってくれるかい?」
「ババ様が?」
「そうだ。ババ様は君たち親子がよく知っているだろう?心配しなくて大丈夫だ。あの人の腕は確かだからね」
何故ババ様がとは一瞬思ったが、護衛がいた事とか何か色々秘密があるのだろうとアランは察し、それ以上は聞かなかった。
何よりも母上が良くなるのなら、なんだっていい。
「それで、アラン。少し君に話があるんだ」
「何でしょうか?」
アルバートはアランをソファーに誘導し、座らせ自らも向かい側のソファに腰かけた。
直ぐに侍女が二人分の飲み物を用意し、退出していく。
「君の母上は暫く絶対安静になる。少なくとも半年は休ませなければならないと思う。そこでだ。提案なんだが、母上が良くなるまでこの公爵家で面倒を見させてくれないだろうか?」
「公爵家で、ですか?」
「そうだ。私は昔、君の母上にとても世話になったんだ。その恩を返したいというのもある。いや・・・正直に話そう。私は君の母上をずっと気にかけていたんだ。何か力になれるなら、力になりたい。いいだろうか」
アルバートはアランの目を真っ直ぐ見て話した。
アランはそんな父親の顔をじっと見た。
「・・・母上をお願いします」
「・・良かった。アラン、君の面倒も見させてくれ。君たち親子の内情を調べらせてもらったんだが、君の父親はいないんだろう?母子だけだと聞いた。せめて母上が良くなるまでで構わない。いいかな」
「・・・・・・はい」
アランは複雑な顔でアルバートを見た。
目の前にいるこの人が恐らく僕の父親だろう。
どうして、父上は僕の存在を知らないのだろう。
母上は隠していた?
何故?
そんな疑問が沸いたが、アランはアルバートに何も言えなかった。
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