月坂寮の日々

Midnight Liar

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いたって平凡な一日

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 自習室は自室の一つ下の階。二階のトイレ以外のフロアは全て自習室だ。
 中学生のフロア、一、二年生のフロア、三年生のフロア、野球部のフロアと分かれている。
 ドアを開けてすぐにある机は自習監督の寮監の机で、その前に向かい合って狭い間隔で並べられているのが寮生の机だ。
 机は職員室にあるようなスチール製のシステムデスク。
 これが相当古くて、一番下の引き出しを開けるとき、キキーッという耳障りな音を立てて開くような代物だ。
「ちわす」
「ちわ」
「おっす」
「うす」
 先に自習室にいた一年生が入ってきた俺に気づき、挨拶をしてくる。
 この寮では上級生に会った際には、どこであれ挨拶するのが決まりだ。
 社会に出てからですらこんなに面倒くさくない、なんて以前遊びに来ていた卒業生が語っていたのには激しく同意する。
「おう」
 俺は手を軽く振って挨拶に応え、奥の方にある自分の席に座る。
 初めに肝心なことを言っておく。自習時間に自習なぞする寮生はいない。いや、少なくともこの部屋には存在しない。
 俺たちはいかに寮監の目を盗んで自習時間遊ぶかを日々考えている。
 そんな俺たちに重要不可欠なのがバリケードだ。これは机の前方をあらゆるもので囲って、手元を隠すもので、誰もが自分の机の前を塀のようなものを築いている。
 俺の場合、小さい引き出しと辞書類を並べており、それだけでは隠しきれないから学生鞄を立てて置いている。
 ちなみに、このいくつか並んでいる辞書のうち、漢和辞典はフェイクであり、カバーだけだ。これは自習中、こっそり本を読んでいるときに寮監が机の近くまで巡回しても、緊急避難できるように置いている。
 だが、ここに滑り込ませるにもテクニックが必要で、寮監が近づいたときに、焦って慌てて移動させると、それをあざとく見つけて没収されてしまう。
 あくまでも、ゆっくりとした動作で音を立てないように忍ばせるのがコツだ。
 他の奴に関してもバリケードは当たり前。
 凄い奴になると、参考書などのカバーをコミックサイズに調整し、それをブックカバーのように漫画に被せて堂々と読んでいる。これはバリケードとは違うけれど、無駄に賢いやり方だ。
 このように自習時間とは名ばかりで、別のことをやっている。
 ただ、それぞれ机の上には勉強道具を出しており、寮監が近づくと、使っていたものを隠し、シャーペンを手に取って、さも勉強しているという素振りを見せて日々凌いでいるのである。
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