月坂寮の日々

Midnight Liar

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いたって平凡な一日

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「あー、もうケータイの充電ないな。石井は?」
「俺も」
 石井も俺と同じ、虫の息のケータイを見せる。
「お前ら、よく充電保つなよな」
 ケータイでゲームを続ける一年生にそう言うと、
「電池の消費がハンパないですよ」
 一年生の一人が机の引き出しを開けて中を見せてくる。
 引き出しには使い終わったであろう乾電池がゴロゴロと転がってくるのが見える。それと、乾電池式のケータイ充電器。
 なぜ、今のご時世に乾電池式なのかというのには理由がある。
 なんと、この寮ではコンセントでの充電ができないのだ。
 いや、寮のいたるところにコンセントはある。だが、電気自体が事務室管理により止められているのだ。
 おそらく、電気を解禁すると電気代が嵩むからだろう。
 ケータイと電子辞書の持ち込みだけ可となっており、他の電化製品については電池式以外不可だ。
 電子辞書は必要なときに申告制で、寮監に申し出ることで充電することができる。
 ケータイは消灯時間前に事務室預け、夜の間に充電し、学校から帰寮すると各々受け取れる仕組みだ。
 ラジカセや、ケータイの充電器も専ら電池式のを使っているが、そうは言ってもほとんどの寮生がゲームなどをこっそり持ち込んでいる。もちろん見つかれば没収。
 それを見つからないようにいろんな所に隠し持っている。
 だが、一番ネックなのは充電場所。
 寮内で充電できるスポットはほとんどない。
 洗濯機の裏か、ラウンジに置いてある自動販売機の裏、ラウンジのテレビの裏、食堂、娯楽室とよばれる部屋のコンセントか。
 どこにしても過去に一度は充電しているところを見つかっており、常に寮監がマークしている。
 リスクを恐れず寮内で充電するか、外出した際にどこかで充電してくるか、大体この二パターン。
 そんな中、寮内で限りなく寮監に見つかりにくい充電方法が存在する。
 それは、自室に備えつけてある電灯のカバーを外し、蛍光灯を外すと、コンセントのようなものが現れる。
 これにプラグを差し込み、蛍光灯をはめ、電気をつけることで充電されるのだ。
 これは寮監に部屋を開けられるまで見つかることはない。
 そもそも寮監が本人在室中に自室を開けることが滅多にないため、ほとんど見つからない。
難点なのは、蛍光灯なんかを外したり、はめたりするのに手間がかかることと、充電している間は警戒のため、自室を離れられないところか。
 だから、自由時間が少ない平日は帰宅部ならまだしも、俺のように部活やってる奴はこの方法は使えない。
 それに、充電している最中の蛍光灯の光がちょっと明る過ぎるのも欠点かも。
 石井がたまにやってもらっているが、充電したいものを学校に持って行き、クラスの奴に頼んで家に持ち帰って充電してきてもらうやり方がある。
 これは学校に不要品を持って行くというリスクはあるものの、ほとんどバレることもないから寮で充電するよりも安全だ。
 ただ、協力者にも多少のリスクを負うやり方だし、電気代のこともあるから、石井は一カ月に一度、学食をおごっているそうだ。
 ん? なんだろう、この違和感は……。
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