半纏姉ちゃん

吉沢 月見

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 大人になってから人が握ったおにぎりってちょっと苦手。そもそも母のしか食べたことがない。その母はもういない。あの野郎も母のおにぎりを食べたのだろうか。そのくせ、なんで同じ気持ちにならないのだろう。私が家を出なければ母もあの男を引き入れなかったのかもしれない。自己嫌悪。
 おにぎりと卵焼き。
「ハンバーグは冷凍のでごめんね」
 なんで倉橋さんが作って、姉はそれを食べながら釣りをしているのだろう。仕事の比重がおかしい。
「お店は?」
 私は姉に聞いた。
「午前中はだいたい発送。もうオワタ」
 会話がオタクかよ。
 そうしていながらも姉は俳句を投稿する。
『水面が きらきらきらり 夏の海』
 いや、いつでも海はきらきらしている。
「恋ちゃん、お茶。あったかいほうじ茶」
「ん」
 倉橋さんは過保護。海にいるから体が冷えると思ったのだろうか。姉は今日も半纏を着ている。私にはよく冷えたペットボトルの水。
「午後の診察は三時から」
 倉橋さんも海を眺める。
 二人が黙るから、私もそうせざるを得ない。これが彼らの日常なのだろう。
 私には耐えられん。
 だから一旦、民宿へ戻った。五十嵐さんは夕飯の仕込みをしていた。
「お昼食べた?」
 と気にかけてくれる。
「はい。倉橋さんのおにぎりを」
「変な二人だろう?」
 五十嵐さんもそれ以上は言わない。恋敵なのだから倉橋さんの悪いところでも言えばいいのに。
「どう考えても姉を彼が養ってますよね?」
「うーん、どうだろ?」
 と五十嵐さんははぐらかす。
「恋人同士だからって愛を語れとは強制しない。でも、黙って海を見ているだけなんて、おかしい」
 話さないとわからないことってたくさんある。他人ならば余計に。
「それは、相手によるっちゃ」
 亡くなった母ともっと話していたらこんなことにならなかっただろうか。避けたのは私だ。
 五十嵐さんも両親を亡くしているから相続に詳しかった。
「うちはこのボロ民宿だけだったし、姉ちゃんがいるけど他県に嫁いでいるから揉めなかったよ。親が保険の受取を個別にしてくれといたし」
「そうですか」
 母を責めたくはない。死んでしまったからだけではない。

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