93 / 99
戻ってきました
92
しおりを挟む
急なことで、清しん亭の女将さんや近くのお店の人には話せていなかった。
「いってらっしゃい」
芯しん亭のみんなはそう送り出してくれた。
「はい」
閻魔様からの書類を見せて門を出た。
当たり前だが、こっちからのバスに乗る人はいない。運転手さんと私だけ。
初めてこちらに来たときの感覚を思い出した。
地獄だから少し怖くて、怯えて、でも働いていたら馴染んだ。怖い人も悪い人もいたけれど、それは人間界も同じこと。
バスは無料なのだ。来るときもそうだった。人間界で例えるなら行政の管轄なのだろうか。芯しん亭の広告もあるから宿の組合のようなものが運営しているのかもしれない。
やっぱりおもしろいな。
久々の人間界も地獄みたいな匂い。こんな匂いだっただろうか。風が私の頬を撫でる。明るい。家々を見下ろし、やっぱりここが私の世界だと感じる。
「戻ってきちゃった」
山の中から出てきた。うちは向こうの丘。歩くしかなさそうだ。山を下りながら海が見える。小さいときからの見慣れた風景だ。
「ただいま」
母が顔を出し、
「あら、おかえり。お土産は? 地獄の石とか」
とわけのわからぬことを言い出した。旅行と勘違いしている。
「そんなのないよ」
母はテレビを見ながら煎餅を食べていた。
「そうなの? 残念」
「それよりおじいちゃんは?」
私は聞いた。
「さぁ」
「若いときからふらっといなくなるんだよ、あの人は」
と父が言った。
そんな人だっただろうか。私の知る祖父はいつも家にいる。きちんと神職の服を着て、なにかを守るように。
「いってらっしゃい」
芯しん亭のみんなはそう送り出してくれた。
「はい」
閻魔様からの書類を見せて門を出た。
当たり前だが、こっちからのバスに乗る人はいない。運転手さんと私だけ。
初めてこちらに来たときの感覚を思い出した。
地獄だから少し怖くて、怯えて、でも働いていたら馴染んだ。怖い人も悪い人もいたけれど、それは人間界も同じこと。
バスは無料なのだ。来るときもそうだった。人間界で例えるなら行政の管轄なのだろうか。芯しん亭の広告もあるから宿の組合のようなものが運営しているのかもしれない。
やっぱりおもしろいな。
久々の人間界も地獄みたいな匂い。こんな匂いだっただろうか。風が私の頬を撫でる。明るい。家々を見下ろし、やっぱりここが私の世界だと感じる。
「戻ってきちゃった」
山の中から出てきた。うちは向こうの丘。歩くしかなさそうだ。山を下りながら海が見える。小さいときからの見慣れた風景だ。
「ただいま」
母が顔を出し、
「あら、おかえり。お土産は? 地獄の石とか」
とわけのわからぬことを言い出した。旅行と勘違いしている。
「そんなのないよ」
母はテレビを見ながら煎餅を食べていた。
「そうなの? 残念」
「それよりおじいちゃんは?」
私は聞いた。
「さぁ」
「若いときからふらっといなくなるんだよ、あの人は」
と父が言った。
そんな人だっただろうか。私の知る祖父はいつも家にいる。きちんと神職の服を着て、なにかを守るように。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~千年屋あやかし見聞録~和菓子屋店主はお休み中
椿蛍
キャラ文芸
大正時代―――和菓子屋『千年屋(ちとせや)』
千年続くようにと祖父が願いをこめ、開業した和菓子屋だ。
孫の俺は千年屋を継いで只今営業中(仮)
和菓子の腕は悪くない、美味しいと評判の店。
だが、『千年屋安海(ちとせや やすみ)』の名前が悪かったのか、気まぐれにしか働かない無気力店主。
あー……これは名前が悪かったな。
「いや、働けよ」
「そーだよー。潰れちゃうよー!」
そうやって俺を非難するのは幼馴染の有浄(ありきよ)と兎々子(ととこ)。
神社の神主で自称陰陽師、ちょっと鈍臭い洋食屋の娘の幼馴染み二人。
常連客より足しげく通ってくる。
だが、この二人がクセモノで。
こいつらが連れてくる客といえば―――人間ではなかった。
コメディ 時々 和風ファンタジー
※表紙絵はいただきものです。

それいけ!クダンちゃん
月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる