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戻ってきました

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 恋してる? 愛されてる?

 ぽわぽわした気持ちのまま私が今日も芯しん亭で働いていると、祖父が行方不明だと姉から手紙が届いた。
あっちではこっちにメールが届くと思っていないのだろう。現に私のスマホは棚の奥にしまったまま。バッテリーは大丈夫だろうか。長らく充電しないとどうなるのだろう。
 スマホよりも祖父が心配だ。霊力もそこそこあるけれど、いかんせん破天荒なところがある。
「帰りたいのか?」
 と一心さんが聞く。
「そりゃ、まぁ」
 祖父は私の理解者だし。でもこっちのほうが生きやすいのかな。右手のこともあるし。厄介事が増えてゆく。人生ってそういうものだ。
 天国に行ったときみたいに自分の世界が合わないと思ってしまったらどうしよう。

「家族には会えるうちに会っておいたほうがいい」
 凌平くんが言った。
「うん…」
 そうなのだが、またこっちに戻れるのかもわからない。
 どうしよう。祖父のことは心配だけれど70前だし、頭もしっかりしているはず。急に旅に出たりはしない人だ。もしかして私を探しに来ているとか?
 体はひとつしかない。こっちに魂を置いて祖父を探しに行くことはできない。
「お役に立てなくてすいません」
 心角さんが頭を下げる。
「いいえ」
 蕪木さんも自分が生きていたならなって顔をしてくれる。探偵もどきをしていたこともあるらしい。
 一度、戻ろう。そう決断したのは私だ。

 夜、その旨を一心さんに伝えた。
「必ず戻ります」
 一心さんは頷いて、また衝立を用意した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 また通行手形をもらって戻ってくればいいと簡単に私は思っていた。
 ちなみに、生きている私がこちらから人間界へ戻るには閻魔様の許可がいる。
「身内がいなくなった? それは心配だな」
 と判を押してくれた。
「ええ」
 わざわざ許可書を届けてくれたので、お茶を淹れた。
「うまい」
 閻魔様か石上さんに、例えば方位磁石のような、ここへ戻る道がわかるものがあるのか聞いてみたがノーだった。普通に生きていたら、たぶん接しない場所に入口があるのだろう。
 大女将が意地悪をして私の記憶を操作することも有り得る。

 一心さんは、
「しばらく会わないから」
 とキスをしてくれた。長め。
 窒息してしまいそう。
 私の体の中の彼の血はどうなっているのだろう。血管の中で巡っているの? 
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