地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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好きなの

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 気づくと、右手を見ている。
 手相は変わっているのだろうか。元々の手相だって覚えていない。
 ただ、この生活はほっとする。

 マッサージのお客さんは増えつつあった。そこでお茶を出すことにした。天国に倣ったわけではない。
 一心さんがいろんなところのお茶を集めてくれる。
 楽しい。洗濯ですら、楽しい。洗濯機も大活躍。乾燥までできるが、地獄門の近くに干しておくと熱い風でほかほかになる。
 日々がきらきらしている。死ななくてよかった。一心さんに感謝する。
 洗剤はいい香り。それなのに地獄特有の匂いには勝てない。
 手足を動かして働く。

 私の手が再生されても、花は咲き続けた。
 大女将が、
「そろそろ正式に婚姻を…」
 と言い出した。
 一心さんは、こりゃ参ったという顔じゃない。表情の読めない人だけど、今回の件にはだんまり。受け入れてる?
 困ってるんだと気づいたのは、いつものように衝立を布団の間に置くときに私を見ないから。
「一心さん、困ってます?」
 蝋燭を消して私は聞いた。
「ああ」
 素直に返事をしてくれる。
「どうして?」
「お前のことは好きじゃない」
「はぁ」
 そんなにはっきり言わなくてもいいのになと私は思った。
「でも、お前のことばかり考える。あのとき、お前が死んだら嫌だと思った」
「あざーっす」
 自分でも間抜けな返事だとわかっていながら、他の言葉が見つからない。顔が熱い。布団の中でよかった。
 好きなのかなって私もずっと思ってる。助けに来てくれたからだけじゃない。あなたの血や能力が便利だからでもないですよ。
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