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好きなの
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夜にはもう仕事に戻れた。夕食はお客様の指定時間なので、配膳と下膳を繰り返す。
「平気なの?」
澪さんも心配してくれる。
「はい」
働けることが嬉しいなんて澪さんに言っても伝わらないだろう。
「忙しいから助かるけどね」
「これ運びますね?」
「お願い」
新しい私の右手は以前の右手よりも握力が強いきがする。力を込めるとおぼんが割れてしまう。右利きだから自分で強弱がつけられる。左手だったらこの力に困惑していただろう。
やっとお風呂。冷たかった足の指にまで血が回り、生きてるなと実感する。
これこそ地獄から天国。
「気持ちいい」
今里ちゃんもお風呂に沈む。
私は天国のことを話した。
「へえ、そんなに退屈なんだ。私なら数分で灰になりそう」
そうでしょうね。ぷっくりしたお尻丸出しで湯船に浮かぶ人なんていないもの。
「お風呂もないのよ。水浴びしていた人はいたけれど」
「そうなんだ」
一心さんの血のことは伏せていた。知られたら結婚話が進むような気がした。いや、血のことを考えれば婚姻できないのではないだろうか。
翌日、石上さんの店で腕時計を選んだ。やっぱりこっちでも腕時計は必須。時間がわからないと怖い。朝と夜の区別がないところなんて、天国か地獄くらいだろうが。
右手だけ急に太くなったらどうしよう。
石上さんに事情を話すと、
「それは違うんじゃない? 一心さんの血を舐めた程度でしょ? 骨髄移植じゃあるまいし」
と言ってくれた。
「石上さん、詳しいんですね?」
「医学部出身なんで。人の体よりも時計のほうが面白くなっちゃったけど。結構いるんだよ。医学部出て他の仕事に就く人」
「そうですか」
生きてれば、いくらでもやり直しはできる。
石上さんはわかりやすく献血などを例にあげてくれた。
「理解できた? よかったね、結婚できるよ」
理解はできたが、よかったのか?
「平気なの?」
澪さんも心配してくれる。
「はい」
働けることが嬉しいなんて澪さんに言っても伝わらないだろう。
「忙しいから助かるけどね」
「これ運びますね?」
「お願い」
新しい私の右手は以前の右手よりも握力が強いきがする。力を込めるとおぼんが割れてしまう。右利きだから自分で強弱がつけられる。左手だったらこの力に困惑していただろう。
やっとお風呂。冷たかった足の指にまで血が回り、生きてるなと実感する。
これこそ地獄から天国。
「気持ちいい」
今里ちゃんもお風呂に沈む。
私は天国のことを話した。
「へえ、そんなに退屈なんだ。私なら数分で灰になりそう」
そうでしょうね。ぷっくりしたお尻丸出しで湯船に浮かぶ人なんていないもの。
「お風呂もないのよ。水浴びしていた人はいたけれど」
「そうなんだ」
一心さんの血のことは伏せていた。知られたら結婚話が進むような気がした。いや、血のことを考えれば婚姻できないのではないだろうか。
翌日、石上さんの店で腕時計を選んだ。やっぱりこっちでも腕時計は必須。時間がわからないと怖い。朝と夜の区別がないところなんて、天国か地獄くらいだろうが。
右手だけ急に太くなったらどうしよう。
石上さんに事情を話すと、
「それは違うんじゃない? 一心さんの血を舐めた程度でしょ? 骨髄移植じゃあるまいし」
と言ってくれた。
「石上さん、詳しいんですね?」
「医学部出身なんで。人の体よりも時計のほうが面白くなっちゃったけど。結構いるんだよ。医学部出て他の仕事に就く人」
「そうですか」
生きてれば、いくらでもやり直しはできる。
石上さんはわかりやすく献血などを例にあげてくれた。
「理解できた? よかったね、結婚できるよ」
理解はできたが、よかったのか?
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