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好きなの

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 あれ? いつも通りの目覚めだ。死んだときはこうなのだろうか。ないはずの右手の感覚もある。体の一部を失くしても脳が混乱してあるような感覚になると聞いたことがある。それだ。

 違った。
「手がある?」
 私の意志できちんと指も動いた。
「目が覚めたか?」
 一心さんの部屋だった。
「戻ってきたの?」
 見慣れた壁に安堵する。
「ああ」
「私の腕…」
 普通に存在していた。私の意志で動く。ほっとした。
「俺の血を飲まなければ死んでいた」
 朝になり、一心さんは半分鬼に戻っているようだった。
「鬼って便利ですね」
「便利って…」
 ぷっと一心さんが笑った。
「え? じゃあ私も鬼ってことですか?」
 手が再生されるなんてこと人間ではありえない。
「そうなるのか? すまない。他に方法がなかった」
 と申し訳なさそうな顔をする。
 他人の血を飲んでも自分の血液型は変わらないからそれと同じ原理だといいが、鬼の血って強そう。
「人間界では血の入れ替えは難しいことではなかったと思います」
 私は言った。血を作る骨髄まで鬼になっているとは考えられないし。
「そうか」
 一心さんがほっとしたのがわかった。
「もう少しはこのままでいます」
 右手が温かい。念のためにいろんなものに触った。力を込めてもお皿は割れない。特に問題はなさそうだ。

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