地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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 頭がガンガンする。

 目を覚ました私はどこかに閉じ込められていた。手足を拘束されてプチパニック。
「大丈夫? やっぱり酒は弱いままなんだな」
 気を失った後で飲まされたのだろうか。アルコールの匂いが漂う。
「創ちゃん?」
 どこだろう。薄暗く、古い油のような嫌な臭いがする。
「瑠莉ちゃん、悪いな。こうするしか、もう」
 創ちゃんは私を誘拐してこいとそそのかされたらしい。黒幕は清しん亭の女将さんではなく、昨日の夜に飲みに出かけたお店の女主人。そしてその話に乗ってしまったのは創ちゃんではなく一緒に亡くなったタクシーの乗客の社長さん。実は、悪い人だったらしい。タクシーの運転手さんの姿はない。創ちゃんも丸め込まれたというよりは脅されたのだろう。

「さて、この子をどうしようかね。閻魔様に売ってもいいし、このままここで…。やっぱり芯しん亭に身代金を要求しようかな。大事に婚約者にいくら払うだろう?」
 腕をうしろでひも状のもので縛られていたが、こういうのは外せてしまうのだ。でも外しても逃げ道がわからないから様子見。
 恐らくは、門と門の間の店のどこかなのだろう。だって、どっちの門を通るにしても通行手形が必要だ。地獄の匂いじゃない。
 だから、この女主人を浅知恵だなと思う。捕まること確定だ。

「ごめん」
 助けに来てくれたのは心角さんだった。壁を粘土みたいに破壊して、デコピンで創ちゃんを眠らせて、あっという間に女店主を締め上げた。壁とかまともに作っても、鬼は簡単に壊せるから古いお店は雑な作りなのかもしれない。
「心角さん、すいません」
「瑠莉様、お怪我はありませんか? 遅くなってすみません」
「いいえ。私こそ誘拐されちゃって」
 心角さんが足の縄を解いてくれる。
「立てますか?」
「はい」
 足に力が入らず震えていた。

 表には閻魔様が仁王立ち。
「閻魔様、今からこの娘を献上しようと…」
 女主の言葉を、
「黙れ」
 と制止する。
 閻魔様が怒ると地震が起こるのだ。知らなかった

 ああ、あの女の人、ここで働いているということは一度は裁きを受けたのだろう。もうここにはいられないだろう。欲をかくからだ。ちらりと腕を見ようと思ったが数字は見えなかった。
 社長さんも捕らえられた。創ちゃんも閻魔様の従者に縄を括られている。
「創ちゃん…」
 と声をかけたら、一瞬微笑んで、ぱっと消えてしまった。
「これが、闇落ちか」
 閻魔様が言った。
 違う。今までの感覚と違いすぎる。だって、触ってもいない。

 ああ、だめだ。体が言うことをきかない。この感じには覚えがある。文子さんのときもそうだった。その前のときも。
「瑠莉様?」
 心角さんの声だけした。あんなに一心さんとキスをしたのに。修行が足りないみたい。
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