地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

文字の大きさ
上 下
80 / 99
錯誤

79

しおりを挟む
 私はまだ一心さんの部屋で眠っていた。大女将には誰も逆らえない。私だって、現世の記憶を消され、気づいたら一心さんのお嫁さんにもうなっている設定に改ざんされたら気づけないかもしれない。それはそれで幸せなんだろうか。

「会いに行かないのか? お前の知り合いなのだろう?」
 夜、一心さんの部屋で床につく直前に言われた。
「死んで残念ねとか? 言えませんよ、そんなこと」
「明日には門の向こうに行ってしまうんだぞ」
 今まで、幾人ものお客さんを見送ってきた。挨拶だけの人、私のマッサージを受けてくれた人もいる。
「話すことないなって。死んだ人と昔の思い出話してもお互い辛いし」
 衝立の向こうで一心さんのため息が聞こえた。
「言っておきたいことがあるだろ? 一生後悔するぞ」
「こっちはそれで満足すかもしれないですが、向こうに行く創ちゃんにはもう夢も希望もないんですよ」
「生きているお前が後悔したらかわいそうだなって思っただけだ」
 そうか。私はまだ生きているのだ。力をコントロールできるようになったら、自分の場所へ戻る。
 誰か、そのことを寂しいと思ってくれる人はいるのだろうか。
 一緒に働いている人たちにとったら、私の滞在期間など一瞬なのだろう。大女将がすぱっと私に関するみんなの記憶を消すのだろう。

 創ちゃんが亡くなってしまって姉は大丈夫だろうかと心配になった。一心さんのパソコンを借りれば連絡が取れる。いろいろ考えているうちに眠ってしまった。寂しくても人間は眠るものなのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

Sonora 【ソノラ】

キャラ文芸
フランスのパリ8区。 凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。 ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。 そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。 心を癒す、胎動の始まり。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び! 天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。 手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。 互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。 堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。 天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……? 敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。 再び開幕! *イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。

栗花落と姫と妖と……

浅井 ことは
キャラ文芸
偶然の出会い、そして謎の目を持つ二人。 自分たちは何者で何をしていけばいいのか……

四天王寺ロダンの冒険

ヒナタウヲ
キャラ文芸
『奇なる姓に妙なる名』その人は『四天王寺ロダン』。  彼はのっぽ背にちじれ毛のアフロヘアを掻きまわしながら、小さな劇団の一員として、日々懸命に舞台芸を磨いている。しかし、そんな彼には不思議とどこからか『謎』めいた話がふわりふわりと浮かんで、彼自身ですら知らない内に『謎』へと走り出してしまう。人間の娑婆は現代劇よりもファナティックに溢れた劇場で、そこで生きる人々は現在進行形の素晴らしい演者達である。  そんな人々の人生を彩る劇中で四天王寺ロダンはどんな役割を演じるのだろうか? ――露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢、秀吉が辞世で詠んだ現代の難波で、四天王寺ロダンは走り出す。  本作は『嗤う田中』シリーズから、一人歩き始めた彼の活躍を集めた物語集です。 『四天王寺ロダンの挨拶』 @アルファポリス奨励賞受賞作品 https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/682000184 @第11回ネット大賞一次通過作品 https://kimirano.jp/special/news/4687/ 『四天王寺ロダンの青春』 等 @第31回電撃大賞一次通過作品

星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。 ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。 でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

処理中です...