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いい人だって死ぬのだ。
芯しん亭近くのいつもの商店へ買い出し途中で創ちゃんの顔を見たとき、悲しかった。知り合いが死ぬって、思っている以上の衝撃だ。しかも、今更どうにもできない。だから泣くしかない。
「泣かないでよ。瑠莉ちゃんがこっちにいるって聞いたけど、本当に働いてるんだね」
「なんで死んじゃったの?」
創ちゃんは実家の花屋の看板を拭いていたら、脚立から落っこちて、運悪くガードレールに頭を強打。地獄に来てしまったのは、創ちゃんが脚立から落ちるのをたまたま視界に入れてしまったタクシー運転手が交通事故を起こして亡くなった人がいたかららしい。タクシーの乗客と運転手も創ちゃんと一緒に来た。即死だったのだろう。死んだ時間でここへ来る順番も決まる。
「運悪いね」
私は言った。
「ああ。どうせ死ぬなら一人でよかった」
「そういうなよ、若造」
タクシーの乗客は会社の社長さんらしい。
「創ちゃんが殺したことにはならないんでしょう?」
私は聞いた。
二人の横でタクシーの運転手さんがため息をつく。
「やっと開業して、これからだっていうときに…。下の娘は今年受験なのに」
「まあまあ、俺の葬式見ただろ? 血縁者だって俺が死んでも金のことしか考えてない。せっかく一緒に死んだんだ、同じ宿に泊まろう」
社長さんが予約しているのはうちではなく清しん亭だった。
「向かいで働いているの。マッサージ店もしているから遊びに来て」
私は創ちゃんに言った。
「うん」
創ちゃんは浮かない顔をしていた。健康だと死は遠くにあるものだと思うのかもしれないが、生きているのだから実は身近なのだ。不運の言葉では片づけられない。
「幼馴染に会っちゃいました」
知り合いとここで会うことの辛さをみんな知っていた。私も死んでいれば、創ちゃんに同じだねと笑い合えたのだろうか。
「あらあら」
澪さんが頭を撫でてくれる。
泣いても無意味だし不毛。
向かい合っていても清しん亭の中の様子まで探れない。女将さんに話しをつければいいのだろうが死んでしまった創ちゃんと話すこともない。姉のことを話題にしたところで彼を苦しめるだけだ。
芯しん亭近くのいつもの商店へ買い出し途中で創ちゃんの顔を見たとき、悲しかった。知り合いが死ぬって、思っている以上の衝撃だ。しかも、今更どうにもできない。だから泣くしかない。
「泣かないでよ。瑠莉ちゃんがこっちにいるって聞いたけど、本当に働いてるんだね」
「なんで死んじゃったの?」
創ちゃんは実家の花屋の看板を拭いていたら、脚立から落っこちて、運悪くガードレールに頭を強打。地獄に来てしまったのは、創ちゃんが脚立から落ちるのをたまたま視界に入れてしまったタクシー運転手が交通事故を起こして亡くなった人がいたかららしい。タクシーの乗客と運転手も創ちゃんと一緒に来た。即死だったのだろう。死んだ時間でここへ来る順番も決まる。
「運悪いね」
私は言った。
「ああ。どうせ死ぬなら一人でよかった」
「そういうなよ、若造」
タクシーの乗客は会社の社長さんらしい。
「創ちゃんが殺したことにはならないんでしょう?」
私は聞いた。
二人の横でタクシーの運転手さんがため息をつく。
「やっと開業して、これからだっていうときに…。下の娘は今年受験なのに」
「まあまあ、俺の葬式見ただろ? 血縁者だって俺が死んでも金のことしか考えてない。せっかく一緒に死んだんだ、同じ宿に泊まろう」
社長さんが予約しているのはうちではなく清しん亭だった。
「向かいで働いているの。マッサージ店もしているから遊びに来て」
私は創ちゃんに言った。
「うん」
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「幼馴染に会っちゃいました」
知り合いとここで会うことの辛さをみんな知っていた。私も死んでいれば、創ちゃんに同じだねと笑い合えたのだろうか。
「あらあら」
澪さんが頭を撫でてくれる。
泣いても無意味だし不毛。
向かい合っていても清しん亭の中の様子まで探れない。女将さんに話しをつければいいのだろうが死んでしまった創ちゃんと話すこともない。姉のことを話題にしたところで彼を苦しめるだけだ。
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