上 下
79 / 99
錯誤

78

しおりを挟む
 いい人だって死ぬのだ。

 芯しん亭近くのいつもの商店へ買い出し途中で創ちゃんの顔を見たとき、悲しかった。知り合いが死ぬって、思っている以上の衝撃だ。しかも、今更どうにもできない。だから泣くしかない。
「泣かないでよ。瑠莉ちゃんがこっちにいるって聞いたけど、本当に働いてるんだね」
「なんで死んじゃったの?」
 創ちゃんは実家の花屋の看板を拭いていたら、脚立から落っこちて、運悪くガードレールに頭を強打。地獄に来てしまったのは、創ちゃんが脚立から落ちるのをたまたま視界に入れてしまったタクシー運転手が交通事故を起こして亡くなった人がいたかららしい。タクシーの乗客と運転手も創ちゃんと一緒に来た。即死だったのだろう。死んだ時間でここへ来る順番も決まる。
「運悪いね」
 私は言った。
「ああ。どうせ死ぬなら一人でよかった」
「そういうなよ、若造」
 タクシーの乗客は会社の社長さんらしい。
「創ちゃんが殺したことにはならないんでしょう?」
 私は聞いた。
 二人の横でタクシーの運転手さんがため息をつく。
「やっと開業して、これからだっていうときに…。下の娘は今年受験なのに」
「まあまあ、俺の葬式見ただろ? 血縁者だって俺が死んでも金のことしか考えてない。せっかく一緒に死んだんだ、同じ宿に泊まろう」
 社長さんが予約しているのはうちではなく清しん亭だった。
「向かいで働いているの。マッサージ店もしているから遊びに来て」
 私は創ちゃんに言った。
「うん」
 創ちゃんは浮かない顔をしていた。健康だと死は遠くにあるものだと思うのかもしれないが、生きているのだから実は身近なのだ。不運の言葉では片づけられない。

「幼馴染に会っちゃいました」
 知り合いとここで会うことの辛さをみんな知っていた。私も死んでいれば、創ちゃんに同じだねと笑い合えたのだろうか。
「あらあら」
 澪さんが頭を撫でてくれる。
 泣いても無意味だし不毛。

 向かい合っていても清しん亭の中の様子まで探れない。女将さんに話しをつければいいのだろうが死んでしまった創ちゃんと話すこともない。姉のことを話題にしたところで彼を苦しめるだけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚

山岸マロニィ
キャラ文芸
  ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼       第伍話 連載中    【持病悪化のため休載】   ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。 浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。 ◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢ 大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける! 【シリーズ詳細】 第壱話――扉(書籍・レンタルに収録) 第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録) 第参話――九十九ノ段(完結・公開中) 第肆話――壺(完結・公開中) 第伍話――箪笥(連載準備中) 番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中) ※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。 【第4回 キャラ文芸大賞】 旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。 【備考(第壱話――扉)】 初稿  2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載 改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載 改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載  ※以上、現在は公開しておりません。 改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出 改稿④ 2021年 改稿⑤ 2022年 書籍化

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

狐姫の弔い婚〜皇帝には愛されませんが呪いは祓わせていただきます

枢 呂紅
キャラ文芸
とある事件により心を閉ざす若き皇帝は、美しくも奇妙な妃を迎える。君を愛するつもりはないと言い放つ彼に、妃は「代わりに、怨霊や呪いの影があればすぐに教えるように」と条件を出す。その言葉通り妃は、皇帝を襲う怨霊を不思議な呪術で退治してみせた。 妃は何者なのか。彼女はなぜ、不思議な力を持つのか。 掴みどころのない妃に徐々に惹かれながら調べるうちに、謎は千年前に呪いを撒き散らした大妖狐へと繋がっていく-- 中華風ファンタジー世界の、謎多き妃×傷を抱えた皇帝のオカルトミステリー!

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

キャラ文芸
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...