74 / 99
美しい花束
73
しおりを挟む
知り合いに会わないために都心まで赴いた。どこにでも地獄に通じている人はいて、配送の手配もしてくれる。
「お待たせしました。こっちが7ですね。こっちなら12用意できます」
7でも多い。一家心中でも一斉に死ぬわけではない。地獄に来るのは死んだ魂の順番による。弔ってくれる親族がいないと芯しん亭には泊まれない。
私は入口近くの高級でない民宿でいい。死んだことを受け入れて、地獄で魂がすり減って蒸発するまで苦行に耐えることも受け入れる。天国に行ければいいのだが、思い返すだけで幾度も嘘をついた。花壇の草むしりをして握った雑草にアブラムシがびっしりついていてたくさん殺した。傷ついた鳥を助けようとして、保護はしたが結局飛べないまま死んだから苦しみを長引かせただけ。
自分のみを守るための嘘もだめなの? 知らないおじさんに声をかけられて、
「一緒に行こう」
と手を引かれそうになって、
「忙しいから」
って嘘をついたのは5歳のとき。周囲は機転が利くわねと褒めてくれたが、閻魔様はどう捉えるのだろう。
悩みながら凌平くんは他の皿も見て回った。絵つきの大皿は昔、結婚式などで使ったらしい。
豆皿が全部かわいく見える。
「お皿なのに市松模様。こっちの水玉もかわいい。あ、傘だ」
私がかわいいと手に取るのは作家さんの新品。
「料理長の好みではないな」
「私もそう思う」
だから自分用に購入。
燭台もあった。剣みたいに立派。いい香りのする蝋燭のときに店で使おう。
お皿は重いので自分で買ったもの以外は配達にしてもらう。
買い物を終えてプラプラした。
「デートみたいですね」
と凌平くんが言う。
「楽しいデートの記憶ないな」
こっちでもあっちでも。
「そうなの?」
凌平くんが聞く。
「歩調とか気にしちゃって」
「一心さんでも?」
「あの人は…」
デートらしいデートもしていない。
「俺も生きてるときはそこそこモテたんだけどな」
知ってる。
「今里ちゃんは? 凌平くんのことかっこいいって」
「澪さんのほうがいい」
それから場所を変えて料理に必要な道具を何点か買った。凌平くんは生きていたらこうして真面目に料理をして生活をしていたのだろう。目に浮かぶ。意外とみんな真面目なのだ。悪い人なんて一割もいないのではないだろうか。
それなのに地獄は人だらけ。人は心の中だけ汚いのかもしれない。顔のように化粧では隠せない。
「お待たせしました。こっちが7ですね。こっちなら12用意できます」
7でも多い。一家心中でも一斉に死ぬわけではない。地獄に来るのは死んだ魂の順番による。弔ってくれる親族がいないと芯しん亭には泊まれない。
私は入口近くの高級でない民宿でいい。死んだことを受け入れて、地獄で魂がすり減って蒸発するまで苦行に耐えることも受け入れる。天国に行ければいいのだが、思い返すだけで幾度も嘘をついた。花壇の草むしりをして握った雑草にアブラムシがびっしりついていてたくさん殺した。傷ついた鳥を助けようとして、保護はしたが結局飛べないまま死んだから苦しみを長引かせただけ。
自分のみを守るための嘘もだめなの? 知らないおじさんに声をかけられて、
「一緒に行こう」
と手を引かれそうになって、
「忙しいから」
って嘘をついたのは5歳のとき。周囲は機転が利くわねと褒めてくれたが、閻魔様はどう捉えるのだろう。
悩みながら凌平くんは他の皿も見て回った。絵つきの大皿は昔、結婚式などで使ったらしい。
豆皿が全部かわいく見える。
「お皿なのに市松模様。こっちの水玉もかわいい。あ、傘だ」
私がかわいいと手に取るのは作家さんの新品。
「料理長の好みではないな」
「私もそう思う」
だから自分用に購入。
燭台もあった。剣みたいに立派。いい香りのする蝋燭のときに店で使おう。
お皿は重いので自分で買ったもの以外は配達にしてもらう。
買い物を終えてプラプラした。
「デートみたいですね」
と凌平くんが言う。
「楽しいデートの記憶ないな」
こっちでもあっちでも。
「そうなの?」
凌平くんが聞く。
「歩調とか気にしちゃって」
「一心さんでも?」
「あの人は…」
デートらしいデートもしていない。
「俺も生きてるときはそこそこモテたんだけどな」
知ってる。
「今里ちゃんは? 凌平くんのことかっこいいって」
「澪さんのほうがいい」
それから場所を変えて料理に必要な道具を何点か買った。凌平くんは生きていたらこうして真面目に料理をして生活をしていたのだろう。目に浮かぶ。意外とみんな真面目なのだ。悪い人なんて一割もいないのではないだろうか。
それなのに地獄は人だらけ。人は心の中だけ汚いのかもしれない。顔のように化粧では隠せない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


影の宦官と薄紅の后~閉ざされた宮廷、呪いの調べ~
ネコ
キャラ文芸
「呪われた宮廷」と呼ばれる古い離宮に、帝の寵愛を受けた后・淡雪(あわゆき)が移り住むことになった。仕える宦官の慧琉(けいりゅう)は寡黙で淡々とした物腰だが、実は過去に宮廷を脅かした呪術事件の生き残りだという。夜な夜な離宮に響く笛の音は、かつて後宮を覆った呪いの再来を告げているのか。淡雪は閉ざされた離宮で孤立し、誰も信用できなくなりかけていたが、慧琉だけは彼女を静かに守り続ける。呪われた離宮には本当に妖がいるのか、それとも人の手による策略なのか。やがて浮かび上がる淡雪の過去と宮廷の秘密が、二人をさらなる深みへと誘う。焦燥の中で繰り広げられる“呪い”の正体を突き止めるべく、静かな戦いが始まる。
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?

高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております
利家と成政 ~正史ルートVS未来知識~
橋本洋一
キャラ文芸
加賀百万石を築いた前田利家と、秀吉の命により非業の死を遂げた佐々成政。
史実に名を残した武将に転生した二人の男。
利家はまったく歴史を知らない元ヤンで、戦国乱世でも『正史』通り真っ直ぐ生きようとする。
一方の成政は歴史オタクの元ひきこもりで、自らの運命を『未来知識』で曲げて幸せになろうとする。
まだ尾張国を統一していない信長の元、犬千代と内蔵助として出会った二人は初対面で「こいつ大嫌いだ!」と嫌いになるが、徐々に互いを認め合うようになる。
二人は互いに影響を与えつつ、やがて日の本を東西に分かつ、大戦の大将へとなる道を歩んでいく。
※架空戦記です。史実と異なります。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる