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美しい花束

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 知り合いに会わないために都心まで赴いた。どこにでも地獄に通じている人はいて、配送の手配もしてくれる。

「お待たせしました。こっちが7ですね。こっちなら12用意できます」
 7でも多い。一家心中でも一斉に死ぬわけではない。地獄に来るのは死んだ魂の順番による。弔ってくれる親族がいないと芯しん亭には泊まれない。

 私は入口近くの高級でない民宿でいい。死んだことを受け入れて、地獄で魂がすり減って蒸発するまで苦行に耐えることも受け入れる。天国に行ければいいのだが、思い返すだけで幾度も嘘をついた。花壇の草むしりをして握った雑草にアブラムシがびっしりついていてたくさん殺した。傷ついた鳥を助けようとして、保護はしたが結局飛べないまま死んだから苦しみを長引かせただけ。
 自分のみを守るための嘘もだめなの? 知らないおじさんに声をかけられて、
「一緒に行こう」
 と手を引かれそうになって、
「忙しいから」
 って嘘をついたのは5歳のとき。周囲は機転が利くわねと褒めてくれたが、閻魔様はどう捉えるのだろう。

 悩みながら凌平くんは他の皿も見て回った。絵つきの大皿は昔、結婚式などで使ったらしい。
 豆皿が全部かわいく見える。
「お皿なのに市松模様。こっちの水玉もかわいい。あ、傘だ」
 私がかわいいと手に取るのは作家さんの新品。
「料理長の好みではないな」
「私もそう思う」
 だから自分用に購入。
 燭台もあった。剣みたいに立派。いい香りのする蝋燭のときに店で使おう。

 お皿は重いので自分で買ったもの以外は配達にしてもらう。
 買い物を終えてプラプラした。
「デートみたいですね」
 と凌平くんが言う。
「楽しいデートの記憶ないな」
 こっちでもあっちでも。
「そうなの?」
 凌平くんが聞く。
「歩調とか気にしちゃって」
「一心さんでも?」
「あの人は…」
 デートらしいデートもしていない。
「俺も生きてるときはそこそこモテたんだけどな」
 知ってる。
「今里ちゃんは? 凌平くんのことかっこいいって」
「澪さんのほうがいい」
 それから場所を変えて料理に必要な道具を何点か買った。凌平くんは生きていたらこうして真面目に料理をして生活をしていたのだろう。目に浮かぶ。意外とみんな真面目なのだ。悪い人なんて一割もいないのではないだろうか。
 それなのに地獄は人だらけ。人は心の中だけ汚いのかもしれない。顔のように化粧では隠せない。
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