地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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美しい花束

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 閻魔様のデートより先に凌平くんと地上へ芯しん亭で使うお皿を見に行くことになった。今里ちゃんが対のお茶碗やセットの小鉢を割ってしまい、心中のお客さんは少ないが料理長にはこだわりもあるようで、家族単位は同じ皿がいいと譲らず、まとまった皿を求めて骨董市に出向いている。
 火事や事故で家族ごと亡くなってくることも少なくない。犯罪だけでなく親より先に死んだだけ、動物を食べただけで地獄に落とされることを知っている人は少ないだろう。むしろどうやったら天国に行けるの? 

 初夏で、現代なのにアンティークの着物の女性が多くて地獄と見紛う。あの大ぶりの花の着物なんて飲み屋のお姉さんが着ていたものに似ている。地獄に遊女はいないが、飲み屋は数件ある。若く見えても鬼だからきっと500年くらい生きているのだろう。あっちの老化はだいたい700年くらいから始まるらしい。
「これ、かわいい」
 緋鯉と真鯉が並んで泳いでいる絵皿。
「うん。料理長も好きそうだ。これもいいな」
 青い小鉢を凌平くんが手に取る。
「爽やかね。これ、いくつありますか?」
 出店している方に私は聞いた。
「ちょっと待ってね」
 広いホールとホールの間で行われている骨董市。本などではなく日用品が多いようだった。
「生きてるとき、こういうところ来たことなかった。いいね」
 凌平くんが言う。
「興味がないと足を運ばないわよね」
 暇なようで忙しくて、だからと言って何をしていたのかあまり記憶にない。バイト、カラオケ、家の手伝い。自然と身につくこともあるし、意識しないと学べないこともある。私は凌平くんと違って料理があんまり。特に家庭料理に興味がない。食べることは好きだが卵かけご飯でいい。だからカフェも凝った料理は作らないだろう。癒しの空間を提供したいのだ。二時間程を確実に奪われる映画も苦手。
「無駄にせかせかしちゃってた。修行だって親父も元気なんだからゆっくりやればいいのに、競いたがって」
 凌平くんがしみじみ言う。
「お父さんに認めてもらいたかったんでしょ?」
 私は生きているからこっちに戻る理論はわかるとして、どうして凌平くんの体まで腐らずに存在しているのだろう。火葬されているはずなのに他の人にも見えているようだ。
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