68 / 99
デート その2
67
しおりを挟む
入口も玄関も清しん亭は芯しん亭にそっくり。赤い絨毯まで。
「悪かったね。あんたが気に入らなかったんだ」
うな垂れるように女将は謝罪してくれた。
「私ではなく憎いのは芯しん亭でしょう?」
「ああ、そうだ。うちの従業員は半分以上が鬼でね、真面目な者もいれば素行の悪い奴もいる。そこへ来てあんたのせいでうちの評判は悪くなるばかりさ」
女将が気にしていたのが評価の☆マークだったので、思わず笑ってしまった。そんなランキングや口コミのせいで己を見失うなんて人間じゃあるまいし。
「繊細なんですね。今度、私のマッサージに来てください。大女将がやらせてくれないんですよ。鬼のおばあちゃんのモニターお願いします。じゃあ」
しゃらっと彼女のかんざしが揺れる音がしたが振り返らなかった。今日も花魁みたいな頭だったな。本物の花魁見たことないけど重くないのだろうか。
そんなことよりも仕事だ。
「数日休んですいませんでした」
とみんなに頭を下げる。
「なに言ってるの? 一心さんと婚前旅行でしょ?」
「どこ行ったの? 楽しかった?」
澪さんたちが笑って言った。大女将のせいでそんな記憶になっているのだろうか。
楽しかった。最初は拷問かと思ったけれど、それなりに悪い時間ではなかった。
大女将が私のうしろで、
「ああ、気に入らない。あの女を追い詰められたのに、むしゃくしゃする」
と叫んでいた。
「暇なら手伝ってくださいよ」
と言おうと思ったが、みんなも大女将が面倒臭くてたてつく者はいない。
「大女将と同じ顔した人が捕えられているのが心苦しかったんだよね。俺だって、見ていられなかったよ」
さすが蕪木さん。
「そうです」
と返事をしたら、大女将はなんとも言えない顔をして奥に引っ込んだ。
「あれは、感動かな?」
長年一緒にいる澪さんにもわからないようだ。
「歯がゆい?」
と料理長。
「嬉しいかな」
心角さんが言った。
私も戻って来れて嬉しい。だって、あのままあそこにいたら、絶対に一心さんに惹かれていたと思うから。流されちゃう。
働いて、忘れよう。
「悪かったね。あんたが気に入らなかったんだ」
うな垂れるように女将は謝罪してくれた。
「私ではなく憎いのは芯しん亭でしょう?」
「ああ、そうだ。うちの従業員は半分以上が鬼でね、真面目な者もいれば素行の悪い奴もいる。そこへ来てあんたのせいでうちの評判は悪くなるばかりさ」
女将が気にしていたのが評価の☆マークだったので、思わず笑ってしまった。そんなランキングや口コミのせいで己を見失うなんて人間じゃあるまいし。
「繊細なんですね。今度、私のマッサージに来てください。大女将がやらせてくれないんですよ。鬼のおばあちゃんのモニターお願いします。じゃあ」
しゃらっと彼女のかんざしが揺れる音がしたが振り返らなかった。今日も花魁みたいな頭だったな。本物の花魁見たことないけど重くないのだろうか。
そんなことよりも仕事だ。
「数日休んですいませんでした」
とみんなに頭を下げる。
「なに言ってるの? 一心さんと婚前旅行でしょ?」
「どこ行ったの? 楽しかった?」
澪さんたちが笑って言った。大女将のせいでそんな記憶になっているのだろうか。
楽しかった。最初は拷問かと思ったけれど、それなりに悪い時間ではなかった。
大女将が私のうしろで、
「ああ、気に入らない。あの女を追い詰められたのに、むしゃくしゃする」
と叫んでいた。
「暇なら手伝ってくださいよ」
と言おうと思ったが、みんなも大女将が面倒臭くてたてつく者はいない。
「大女将と同じ顔した人が捕えられているのが心苦しかったんだよね。俺だって、見ていられなかったよ」
さすが蕪木さん。
「そうです」
と返事をしたら、大女将はなんとも言えない顔をして奥に引っ込んだ。
「あれは、感動かな?」
長年一緒にいる澪さんにもわからないようだ。
「歯がゆい?」
と料理長。
「嬉しいかな」
心角さんが言った。
私も戻って来れて嬉しい。だって、あのままあそこにいたら、絶対に一心さんに惹かれていたと思うから。流されちゃう。
働いて、忘れよう。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
どうやら私は二十歳で死んでしまうようです
ごろごろみかん。
キャラ文芸
高二の春。
皆本葉月はある日、妙な生き物と出会う。
「僕は花の妖精、フラワーフープなんだもん。きみが目覚めるのをずっと待っていたんだもん!」
変な語尾をつけて話すのは、ショッキングピンクのうさぎのぬいぐるみ。
「なんだこいつ……」
葉月は、夢だと思ったが、どうやら夢ではないらしい。
ぬいぐるみ──フラワーフープはさらに言葉を続ける。
「きみは20歳で死んじゃうんだもん。あまりにも不憫で可哀想だから、僕が助けてあげるんだもん!」
これは、寂しいと素直に言えない女子高生と、その寂しさに寄り添った友達のお話。
忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~
ma-no
キャラ文芸
某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。
日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。
どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!?
注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。
❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓
よろしければ一票を入れてください!
よろしくお願いします。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる