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デート その2

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 どうして閻魔様はこんなところに私たちを置き去りにしたのだろう。大女将の差し金で夫婦にさせたいのだろうか。私たちが夫婦になると閻魔様に利点はあるのだろうか。

 敷地内を散歩しながら、
「うちの庭ももっと手を入れるべきだろうか」
 と一心さんが言った。
「きれいですけどね。あの厠だったところを壊して東屋にしては?」
「改築には金がかかる」
 地獄では植物が育たないから木の輸送費がかかるそうだ。
「多肉植物は?」
 増やすことも難しくないらしい。グリーンネックレスなどなら緑がきれいだろう。
「サボテンなどの種類か?」
「食べられるものもあるらしいですよ」
「へえ」
 そういうことを考えていることだけでも楽しい。

 今日も音沙汰なし。
 永久、悠久、永遠。どれなのだろう。さすがに飽きる。
「このまま、戻れないなんてことはないですよね?」
 私はいいのだが、一心さんは芯しん亭の仕事がある。
「閻魔様の気分次第だ」
「忙しくて忘れてたりしませんか?」
 ある意味、ここも闇の中みたいなものだ。
「有り得るな」
 いざとなったら会沢さんに頼ろう。パソコンもあったし。
「一心さん、なにか話して」
 眠る前におねだりした。
「そうだな。300年くらい前…」
「ふふっ。昔すぎ」
 一心さんは自分のことはそんなに話さないが、亡くなった奥さんたちのことはたくさん話してくれた。最初の奥さんは料理が上手だったこと、二番目の奥さんは髪がきれいだったと、懐かしそうというよりは寂しそうに。
 まだ愛しているのだろうか。話しながら泣くからいたたまれなくなって、抱き締めて眠った。男の人を抱き締めるのは初めてで、私の腕がもっと長かったらぎゅっとしてあげられるのにと思ったりした。
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