63 / 99
デート その2
62
しおりを挟む
「お風呂に入ってきます」
沈黙に耐え兼ねて私は席を立った。
「ああ」
水質は芯しん亭に似ている。
閻魔様の敷地の外へ逃げたら鬼に殺されるのだろうし、これでは軟禁だ。お湯が張るのを待ちながら、幾度かため息をついた。
温泉が出るだけ、お湯が出るだけいい。
ああ、だめ。頭の中がぐちゃぐちゃするから何も考えないほうがいい。好きな歌を歌って、好きなことを考えよう。
創ちゃんのことが一瞬だけ頭をよぎる。それもだめ。私を安堵させてはくれない。
お風呂に入って、ほっとする。禊ではない。
文子さんを消した罪悪感は消えない。その前は子どものときだった。他のものも消したことがあったのだろうか。
小さな電球のぼんやりした明かりが心地いい。
お風呂から出て、タオルしかないことに焦る。
浴衣を見つけて、それに袖を通す。
「一心さんのも。きっと閻魔様のですかね?」
と渡した。
「すまない」
「こういうときは『ありがとう』ですよ」
「そうか」
私はストレッチをしながら足をマッサージ。むくみ解消のために足上げ。これ、浴衣でするものじゃない。
血の巡りをよくしてもお腹が空かなくて、闇の中もきっとこうなのだろうと思った。そして、文子さんはそこで私をずっと恨んでいる。
一心さんへの恋心が文子さんをおかしくさせてしまったのだろうか。一心さんはもう人を好きになれないみたい。私とこんなところに閉じ込められて迷惑だろう。困った顔でお風呂に入っていった。一心さんだけでもここから芯しん亭に戻れないかな。大女将も閻魔様には頭は上がらないようだ。仕事を任されているからだろうか。
私だって闇を抱えているのだ。誰だって孤独の一面を持っている。
一心さんがお風呂から出てくると、困った。どちらも話さないと、無音。
「寝ましょうか?」
他にすることがないのだ。
「俺はそこの椅子でいい」
一人掛けのひじ掛けのあるタイプだから並べて横になることは不可能。
「大きいベッドなので気にしません」
と言ったものの、無理だった。ドキドキする。くっついてもいないのに、私と一心さんの間に温かい空気が存在する。
沈黙に耐え兼ねて私は席を立った。
「ああ」
水質は芯しん亭に似ている。
閻魔様の敷地の外へ逃げたら鬼に殺されるのだろうし、これでは軟禁だ。お湯が張るのを待ちながら、幾度かため息をついた。
温泉が出るだけ、お湯が出るだけいい。
ああ、だめ。頭の中がぐちゃぐちゃするから何も考えないほうがいい。好きな歌を歌って、好きなことを考えよう。
創ちゃんのことが一瞬だけ頭をよぎる。それもだめ。私を安堵させてはくれない。
お風呂に入って、ほっとする。禊ではない。
文子さんを消した罪悪感は消えない。その前は子どものときだった。他のものも消したことがあったのだろうか。
小さな電球のぼんやりした明かりが心地いい。
お風呂から出て、タオルしかないことに焦る。
浴衣を見つけて、それに袖を通す。
「一心さんのも。きっと閻魔様のですかね?」
と渡した。
「すまない」
「こういうときは『ありがとう』ですよ」
「そうか」
私はストレッチをしながら足をマッサージ。むくみ解消のために足上げ。これ、浴衣でするものじゃない。
血の巡りをよくしてもお腹が空かなくて、闇の中もきっとこうなのだろうと思った。そして、文子さんはそこで私をずっと恨んでいる。
一心さんへの恋心が文子さんをおかしくさせてしまったのだろうか。一心さんはもう人を好きになれないみたい。私とこんなところに閉じ込められて迷惑だろう。困った顔でお風呂に入っていった。一心さんだけでもここから芯しん亭に戻れないかな。大女将も閻魔様には頭は上がらないようだ。仕事を任されているからだろうか。
私だって闇を抱えているのだ。誰だって孤独の一面を持っている。
一心さんがお風呂から出てくると、困った。どちらも話さないと、無音。
「寝ましょうか?」
他にすることがないのだ。
「俺はそこの椅子でいい」
一人掛けのひじ掛けのあるタイプだから並べて横になることは不可能。
「大きいベッドなので気にしません」
と言ったものの、無理だった。ドキドキする。くっついてもいないのに、私と一心さんの間に温かい空気が存在する。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~
於田縫紀
ファンタジー
36歳無職、元高校中退の引きこもりニートの俺は、ある日親父を名乗る男に強引に若返らされ、高校生として全寮制の学校へ入学する事になった。夜20時から始まり朝3時に終わる少し変わった学校。その正体は妖怪や人外の為の施設だった。俺は果たして2度目の高校生活を無事過ごすことが出来るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる