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デート その2

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「お風呂に入ってきます」
 沈黙に耐え兼ねて私は席を立った。
「ああ」
 水質は芯しん亭に似ている。

 閻魔様の敷地の外へ逃げたら鬼に殺されるのだろうし、これでは軟禁だ。お湯が張るのを待ちながら、幾度かため息をついた。
 温泉が出るだけ、お湯が出るだけいい。
 ああ、だめ。頭の中がぐちゃぐちゃするから何も考えないほうがいい。好きな歌を歌って、好きなことを考えよう。
 創ちゃんのことが一瞬だけ頭をよぎる。それもだめ。私を安堵させてはくれない。

 お風呂に入って、ほっとする。禊ではない。
 文子さんを消した罪悪感は消えない。その前は子どものときだった。他のものも消したことがあったのだろうか。
 小さな電球のぼんやりした明かりが心地いい。

 お風呂から出て、タオルしかないことに焦る。
 浴衣を見つけて、それに袖を通す。
「一心さんのも。きっと閻魔様のですかね?」
 と渡した。
「すまない」
「こういうときは『ありがとう』ですよ」
「そうか」
 私はストレッチをしながら足をマッサージ。むくみ解消のために足上げ。これ、浴衣でするものじゃない。
 血の巡りをよくしてもお腹が空かなくて、闇の中もきっとこうなのだろうと思った。そして、文子さんはそこで私をずっと恨んでいる。
 一心さんへの恋心が文子さんをおかしくさせてしまったのだろうか。一心さんはもう人を好きになれないみたい。私とこんなところに閉じ込められて迷惑だろう。困った顔でお風呂に入っていった。一心さんだけでもここから芯しん亭に戻れないかな。大女将も閻魔様には頭は上がらないようだ。仕事を任されているからだろうか。
 私だって闇を抱えているのだ。誰だって孤独の一面を持っている。

 一心さんがお風呂から出てくると、困った。どちらも話さないと、無音。
「寝ましょうか?」
 他にすることがないのだ。
「俺はそこの椅子でいい」
 一人掛けのひじ掛けのあるタイプだから並べて横になることは不可能。
「大きいベッドなので気にしません」
 と言ったものの、無理だった。ドキドキする。くっついてもいないのに、私と一心さんの間に温かい空気が存在する。
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