上 下
62 / 99
デート その2

61

しおりを挟む
 地獄だからなのか芯しん亭よりも空が暗い。隣りの家はネズミのような生き物が出るから向かいの家がいいと会沢さんが教えてくれた。
 敷地内の家も東西南北になっているようだった。真ん中に団子屋。鬼門を気にしているなら笑うな。鬼が来るから鬼門。ここでは全方位だ。

「暑い」
 熱波のような風に一心さんが汗を拭う。この風を遮るために芯しん亭の前には巨大な門があるのかもしれない。
 硫黄の匂いにも鼻がすぐに慣れる。ガスを含んでいたら本当に死んでしまうのではないだろうか。私、生身の人間なのよ。こっちに来たことある人っているのかしら。どんなに霊力が強い人も三途の川あたりまでじゃないかな。ここは空気が苦い。
「鍵とかないのかしら。不用心ね」
 教えてもらった家の玄関を開けて私は言った。
「内鍵はあるな。ここであの人のものを盗む奴はいないんだろうよ」
 それならば閻魔様はなにに怯えているのだろう。悪夢が怖いとかだったら笑える。でも私と同じで眠れないのであれば同情はする。

「お邪魔します」
 こちらも平屋で会沢さんのところよりは広い。二間とLDKがある。
「勝手にいいんだろうか?」
 一心さんはソファに腰もおろさない。一人掛けが4脚。これも東西南北なのだろうと推測する。
「ここに置いていかれちゃったんだからしょうがないですよね。一心さん電話とかないんですか?」
「急に拉致られたからな」
 私も着替えすらない。
 テレビもないし、あるのは壁にかかった地獄絵図のみ。
「これを見ていて楽しいのでしょうか?」
 釜茹で、獣や蛇に食い殺される、鬼の金棒でだるま落とし。
「閻魔様にとってはアトラクションを考えているようなものだから」
「いかに苦しめるかで?」
「残酷だが、それも仕事だ」

 一心さんがキスをしてきた。
「これも仕事みたいなものですか?」
「こっちのほうが地獄の空気が強いから体が辛いだろう?」
「わかりません」
 困ったことにベッドはひとつ。
 いつも寡黙な一心さんが話してくれるはずもなく、沈黙。私は自分で自分の手のひらを揉みほぐした。

 あまり暇な時間がなかった。勉強というか、学ぶことが好きで、暇だから遊びに行くという感覚もない。こちらに来てからは、殊更仕事に追われた。こういう時間が自分に必要とも思わない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

閻魔の庁

夢酔藤山
ホラー
小野篁。 後世に伝わる彼の伝説は、生々しい。 昼は平安朝の貴族にして、夜は閻魔大王の片腕となる。その奇怪なる人物の目を通じて、人の世の因果を描く。閻魔の役人は現世をどう傍観するものか。因果応報……小野篁は冷ややかに世を見つめる。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...