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デート その2
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地獄だからなのか芯しん亭よりも空が暗い。隣りの家はネズミのような生き物が出るから向かいの家がいいと会沢さんが教えてくれた。
敷地内の家も東西南北になっているようだった。真ん中に団子屋。鬼門を気にしているなら笑うな。鬼が来るから鬼門。ここでは全方位だ。
「暑い」
熱波のような風に一心さんが汗を拭う。この風を遮るために芯しん亭の前には巨大な門があるのかもしれない。
硫黄の匂いにも鼻がすぐに慣れる。ガスを含んでいたら本当に死んでしまうのではないだろうか。私、生身の人間なのよ。こっちに来たことある人っているのかしら。どんなに霊力が強い人も三途の川あたりまでじゃないかな。ここは空気が苦い。
「鍵とかないのかしら。不用心ね」
教えてもらった家の玄関を開けて私は言った。
「内鍵はあるな。ここであの人のものを盗む奴はいないんだろうよ」
それならば閻魔様はなにに怯えているのだろう。悪夢が怖いとかだったら笑える。でも私と同じで眠れないのであれば同情はする。
「お邪魔します」
こちらも平屋で会沢さんのところよりは広い。二間とLDKがある。
「勝手にいいんだろうか?」
一心さんはソファに腰もおろさない。一人掛けが4脚。これも東西南北なのだろうと推測する。
「ここに置いていかれちゃったんだからしょうがないですよね。一心さん電話とかないんですか?」
「急に拉致られたからな」
私も着替えすらない。
テレビもないし、あるのは壁にかかった地獄絵図のみ。
「これを見ていて楽しいのでしょうか?」
釜茹で、獣や蛇に食い殺される、鬼の金棒でだるま落とし。
「閻魔様にとってはアトラクションを考えているようなものだから」
「いかに苦しめるかで?」
「残酷だが、それも仕事だ」
一心さんがキスをしてきた。
「これも仕事みたいなものですか?」
「こっちのほうが地獄の空気が強いから体が辛いだろう?」
「わかりません」
困ったことにベッドはひとつ。
いつも寡黙な一心さんが話してくれるはずもなく、沈黙。私は自分で自分の手のひらを揉みほぐした。
あまり暇な時間がなかった。勉強というか、学ぶことが好きで、暇だから遊びに行くという感覚もない。こちらに来てからは、殊更仕事に追われた。こういう時間が自分に必要とも思わない。
敷地内の家も東西南北になっているようだった。真ん中に団子屋。鬼門を気にしているなら笑うな。鬼が来るから鬼門。ここでは全方位だ。
「暑い」
熱波のような風に一心さんが汗を拭う。この風を遮るために芯しん亭の前には巨大な門があるのかもしれない。
硫黄の匂いにも鼻がすぐに慣れる。ガスを含んでいたら本当に死んでしまうのではないだろうか。私、生身の人間なのよ。こっちに来たことある人っているのかしら。どんなに霊力が強い人も三途の川あたりまでじゃないかな。ここは空気が苦い。
「鍵とかないのかしら。不用心ね」
教えてもらった家の玄関を開けて私は言った。
「内鍵はあるな。ここであの人のものを盗む奴はいないんだろうよ」
それならば閻魔様はなにに怯えているのだろう。悪夢が怖いとかだったら笑える。でも私と同じで眠れないのであれば同情はする。
「お邪魔します」
こちらも平屋で会沢さんのところよりは広い。二間とLDKがある。
「勝手にいいんだろうか?」
一心さんはソファに腰もおろさない。一人掛けが4脚。これも東西南北なのだろうと推測する。
「ここに置いていかれちゃったんだからしょうがないですよね。一心さん電話とかないんですか?」
「急に拉致られたからな」
私も着替えすらない。
テレビもないし、あるのは壁にかかった地獄絵図のみ。
「これを見ていて楽しいのでしょうか?」
釜茹で、獣や蛇に食い殺される、鬼の金棒でだるま落とし。
「閻魔様にとってはアトラクションを考えているようなものだから」
「いかに苦しめるかで?」
「残酷だが、それも仕事だ」
一心さんがキスをしてきた。
「これも仕事みたいなものですか?」
「こっちのほうが地獄の空気が強いから体が辛いだろう?」
「わかりません」
困ったことにベッドはひとつ。
いつも寡黙な一心さんが話してくれるはずもなく、沈黙。私は自分で自分の手のひらを揉みほぐした。
あまり暇な時間がなかった。勉強というか、学ぶことが好きで、暇だから遊びに行くという感覚もない。こちらに来てからは、殊更仕事に追われた。こういう時間が自分に必要とも思わない。
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