地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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デート その2

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 新月で一心さんに会わず、気まずさもあって数日避けていたら、鉢の花が枯れ始めた。

「吉凶の星まで見えた」
 と大女将が騒ぎ立てる。
 丸っこい花の一部が茶色く変色しただけ。
「枯れますよね。花なんだから」
 花を見下ろして私は言った。
 みんなが黙る。そうか、普通の花ではないのだ。そして地獄は花が咲く環境でもない。
「前のときは咲子が亡くなるまできれいなままだった」
 と一心さんが真顔で言う。
「私が死ぬっていうことですか?」
「さぁな」
 一心さんが冷たいから、
「婚約者ならもっと優しくしてやれよ」
 と蕪木さんが諭す。

「どうしたらいいんだろう?」
 と凌平くんたちが栄養価の高そうなごはんを作ってくれるけれど、私の体は元気なのだ。
 この花が枯れたら花見も終了だし、私も一心さんの婚約者から解放されるのだろうか。それでもいいけど。
「仕事、少し休む?」
 澪さんまで心配顔。
「大丈夫です」
 周囲は私の健康を疑う。死ぬのなら前触れがあるはず。いや、そんなものないのかもしれない。ぱたりと死ぬのだ。

 まだ夢の途中。それでも死ぬときは死ぬ。生命線が長かろうが関係ない。
 せめて、誰かを好きになって、その人からも愛される人生を送りたかった。こっちで死んだら手続きはどうなるのだろうか。地獄行き決定?

 心角さんが人間界から私の好物のいちごを仕入れて来てくれて、それがすごくおいしい。死んでしまったら、こんなにおいしいものが食べられない。会いたい人にも会えない。
 死ぬっていうことはそういうこと。覚悟をしていてもしていなくても、生きていたら誰でも死ぬ。一生懸命生きなくちゃいけない理由もない。
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