地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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デート その2

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 商売上手な大女将が噂を広めてくれたのか口コミのおかげか、近所の人が私のマッサージ店へ足を運んでくれるようになった。自分で考えたチケットながら、
『鬼割』
 はすっごく割引しなくてはいけないような字面に見える。

「痛かったら言ってください」
 今日は近くで働く女鬼さん。
「もっと強くても大丈夫よ。鬼だから疲れるってことはないんだけど、やっぱり気持ちいいわ」
 鬼でも女性の肌だからそっとする。骨格も同じだし、なにが人間と違うのだろう。考え方? 血? DNA? 寿命も食べ物の好みも異なるのだろう。
「きれいな爪ですね」
 この人は近くで飲み屋を営んでいる。白に青のドットのネイルをしていた。
「自分でやったの」
「ハンドマッサージもやりますから」
 せっかく来てくれたお客様だからアピール。
「そう。じゃあ今度お願いしようかな」
 鬼って人間よりも少し手が長い。そしてすごく力が強いらしい。指も長い。だから一心さんの手を大きく感じるのかもしれない。
 やだ、すぐに彼のことを考えてしまう。
「ありがとうね」
 4000円をいただいた。
「姉さん、そこまで送りますよ」
 蕪木さんは晴れてもいないのに日傘を差し出す。
「あら、ありがとう」
 蕪木さんは相変わらずのらりくらりと仕事をしている。好きじゃないけど、彼のおかげで心角さんの夜勤が減ったようでよかった。

 夜中に起きている蕪木さんが仕事をしているとも限らないが、今のところは問題ないらしい。門と門の間だから客は逃げようがないし、大半の人間は用意された道を進むものだ。罪を増やしたって、ここはもう地獄の入口。
「ここいらの女は妙に硬いな」
 戻ってきた蕪木さんが首を捻る。こっちでは女の人を落とせずにいる。
「勘がいい人が多いんでしょうかね」
 働く女の子、出入りする女性に声をかけるも撃沈のようだ。女の尻を追いかけるのが好きな人って最近の人間界には少なくなったように見える。あっちでもこっちでも誠実な人ブームなのだろうか。私も浮気は嫌だな。
「俺も寄る年波には勝てないか」
 蕪木さんは今、若くてきれいな女の子がいいという要望を捨て、わがままを言わないから誰でもいいというところまできている。
 おかしな人だなと思う。人一倍寂しがり屋なのかもしれない。
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