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悪気なく悪い男
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「美人薄命って言うものね」
澪さんは若い人が亡くなってくると同情してしまうタイプ。
「今の世の中は生きるのが辛そうな若者が多い気がします」
私は言った。
「贅沢なこと」
確かに苦しい時代を生きた澪さんたちはそう思って当然。
逃げ場所がない子が多すぎる。人に頼ることを誰も教えてくれない。スマホは便利だけれど自己解決能力ばかり身につけても限度がある。
精神が崩壊したら、恐らく自分だってそれに気づかない。
初報酬の7000円を一心さんに預かってもらう。こっちには銀行みたいなシステムがないらしい。そして7000円は貴重だ。鍵付きの棚に入れても無意味。鬼の力ではすぐに鍵が壊せるし棚ごと持ち去られるかもしれない。
通例に則って、あっちの世界では偽物の六文銭を棺桶に入れ、それをこっちで船が渡れるのも滑稽だがおもしろい。現金を入れることは良しとされていないらしいが、それを持ってこの辺りで遊ぶ人もいる。お金が酒に溶けるなんて、あっちと同じだ。現世と同じで子どもにはお酒は提供しない決まりごと。そういうことが無数にある。
麻美さんと一緒にお風呂に入っていたら、
「ここで働いて、自分の仕事までして疲れない?」
と聞いて来た。
麻美さんは何のために働いているのだろうか。ここが楽なのだろう。地獄で毎日苦痛を感じるよりはマシと思っている程度かもしれない。
「私ってお金が好きなのかも。お金をいただくと疲れが吹っ飛ぶもの」
「強欲も大罪よ」
そうだった。
昔の人と比べると、思考まで贅沢。楽しく働いてお金を得たいなんて、口が裂けても言えない時代があった。お金の価値が変わったというより、人が利口になってずるくなって図々しくなってきたように思う。長生きになったのだからいつでも考えを改められることも可能になった。間違っていたら正せばいい。余裕をもって生きればいいはずなのになぜか世の中はギスギスしている。
翌朝、まだ早いのに地獄の門が開いて、私がマッサージをした美少女に迎えが来た。訳あって、生き返ることになったそうだ。
彼女は怯えた顔で、鬼ではなく天界の人に連れて行かれた。
「どういうことですか?」
お茶の時間に私は澪さんに聞いた。
「多分だけど、彼女の近しい人間が子どもを授かったのよ。その生まれ変わりが他にいなかったからわざわざここまで迎えに来たんじゃないかしら」
確かに、魂というのにも家族みたいな括りがあると聞いたことがある。
「いやですね、家族って選べないんだもん」
今里ちゃんが言った。親と心中する羽目になった彼女は親を恨んでいるのだろうか。腕に見え隠れする数字を私ははっきりと見ないことにした。
澪さんは若い人が亡くなってくると同情してしまうタイプ。
「今の世の中は生きるのが辛そうな若者が多い気がします」
私は言った。
「贅沢なこと」
確かに苦しい時代を生きた澪さんたちはそう思って当然。
逃げ場所がない子が多すぎる。人に頼ることを誰も教えてくれない。スマホは便利だけれど自己解決能力ばかり身につけても限度がある。
精神が崩壊したら、恐らく自分だってそれに気づかない。
初報酬の7000円を一心さんに預かってもらう。こっちには銀行みたいなシステムがないらしい。そして7000円は貴重だ。鍵付きの棚に入れても無意味。鬼の力ではすぐに鍵が壊せるし棚ごと持ち去られるかもしれない。
通例に則って、あっちの世界では偽物の六文銭を棺桶に入れ、それをこっちで船が渡れるのも滑稽だがおもしろい。現金を入れることは良しとされていないらしいが、それを持ってこの辺りで遊ぶ人もいる。お金が酒に溶けるなんて、あっちと同じだ。現世と同じで子どもにはお酒は提供しない決まりごと。そういうことが無数にある。
麻美さんと一緒にお風呂に入っていたら、
「ここで働いて、自分の仕事までして疲れない?」
と聞いて来た。
麻美さんは何のために働いているのだろうか。ここが楽なのだろう。地獄で毎日苦痛を感じるよりはマシと思っている程度かもしれない。
「私ってお金が好きなのかも。お金をいただくと疲れが吹っ飛ぶもの」
「強欲も大罪よ」
そうだった。
昔の人と比べると、思考まで贅沢。楽しく働いてお金を得たいなんて、口が裂けても言えない時代があった。お金の価値が変わったというより、人が利口になってずるくなって図々しくなってきたように思う。長生きになったのだからいつでも考えを改められることも可能になった。間違っていたら正せばいい。余裕をもって生きればいいはずなのになぜか世の中はギスギスしている。
翌朝、まだ早いのに地獄の門が開いて、私がマッサージをした美少女に迎えが来た。訳あって、生き返ることになったそうだ。
彼女は怯えた顔で、鬼ではなく天界の人に連れて行かれた。
「どういうことですか?」
お茶の時間に私は澪さんに聞いた。
「多分だけど、彼女の近しい人間が子どもを授かったのよ。その生まれ変わりが他にいなかったからわざわざここまで迎えに来たんじゃないかしら」
確かに、魂というのにも家族みたいな括りがあると聞いたことがある。
「いやですね、家族って選べないんだもん」
今里ちゃんが言った。親と心中する羽目になった彼女は親を恨んでいるのだろうか。腕に見え隠れする数字を私ははっきりと見ないことにした。
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