地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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悪気なく悪い男

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 マッサージの最初のお客さんは泊り客の女の人だった。かわいそうなほど細く、病気で苦しんで亡くなったのに地獄に落ちてしまった美少女はとっても口が悪かった。11歳にしては面構えが大人びているのに、粗暴というか品がない。ここへ来たばかりの今里ちゃんのよう。

 オイルのコースを選択し、
「こういうの、夢だった。生きてるときは骨折するかもってだめだったの。今は死ぬほど体が軽い」
 死んでますけどね。
 私が背中に触れるたびにびくっとする。でも好きな匂いを選んでもらったから、その香りを深く吸い込む。
「もっと早く死ねたと思うんだよね。延命治療なんてしなくていいのに。しかも私が死んだ夜にうちの親、子作りしてるの。ウケる」
 そうやって悲しみを紛らわせるしかできなかったのだろうに。それを伝えられるほど私は子どもではなかった。もっと若かったら一緒になって、
「大人ってバカね」
 って言えるのに。
 有難いことに、開店にあたってこっちでは人間界ではよくある面倒な開業届などの申請が不要。
 子どもだからで足は細いし、お尻も小さい。彼女の言葉に同意しようか悩んだ。お客様だからってできないことはある。
「それだけ、悲しかったんでしょうね」
 わかり合えない人とならわかりあえなくてもいい。
「うん」
 と彼女は声を鼻水混じりに返答した。
「呼吸を私に合わせてください。吸って、吐いて」
「はい」
 意外と素直。
 死人だからなのか若いせいなのか、コリがなくて、揉みごたえもない。もっと凝り固まった体をほぐしてあげたいというのは私の願望でしかない。
 私の手が大きいからふくらぎなんて掴めちゃいそう。
「好きなことなんてなにもできない人生だった」
 と彼女は言った。健康な人間が好き勝手生きていると思ったら大間違い。お金が必要だし、好きな人は振り向いてくれないのが常。それも病気の人から見たら楽しいことなのだろう。
「オイルを拭き取りますね」
 ペーパーを肌に貼り付け、余計なオイルを拭う。
 彼女は黙って私の施術を受けてくれた。親のことをぼやく程度の不満しか彼女にはないのだ。
「自分たちで作っておいて、死んだら大泣きして。こっちの身にもなってほしいわ」
こんな子どもでもお金があれば宿泊させるのね。大女将の考えは一貫している。
 オイルはちょっと高めの7000円。あっちと違って法律がないから消費税は取らないことにした。
「ありがとうございます」
 このお金も彼女の両親が棺桶に入れてくれたものなのだろう。それを受け取って、私はまた新しいオイルと買うのだ。自分の半分も生きていなくても客は客。
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