54 / 99
悪気なく悪い男
53
しおりを挟む
マッサージの最初のお客さんは泊り客の女の人だった。かわいそうなほど細く、病気で苦しんで亡くなったのに地獄に落ちてしまった美少女はとっても口が悪かった。11歳にしては面構えが大人びているのに、粗暴というか品がない。ここへ来たばかりの今里ちゃんのよう。
オイルのコースを選択し、
「こういうの、夢だった。生きてるときは骨折するかもってだめだったの。今は死ぬほど体が軽い」
死んでますけどね。
私が背中に触れるたびにびくっとする。でも好きな匂いを選んでもらったから、その香りを深く吸い込む。
「もっと早く死ねたと思うんだよね。延命治療なんてしなくていいのに。しかも私が死んだ夜にうちの親、子作りしてるの。ウケる」
そうやって悲しみを紛らわせるしかできなかったのだろうに。それを伝えられるほど私は子どもではなかった。もっと若かったら一緒になって、
「大人ってバカね」
って言えるのに。
有難いことに、開店にあたってこっちでは人間界ではよくある面倒な開業届などの申請が不要。
子どもだからで足は細いし、お尻も小さい。彼女の言葉に同意しようか悩んだ。お客様だからってできないことはある。
「それだけ、悲しかったんでしょうね」
わかり合えない人とならわかりあえなくてもいい。
「うん」
と彼女は声を鼻水混じりに返答した。
「呼吸を私に合わせてください。吸って、吐いて」
「はい」
意外と素直。
死人だからなのか若いせいなのか、コリがなくて、揉みごたえもない。もっと凝り固まった体をほぐしてあげたいというのは私の願望でしかない。
私の手が大きいからふくらぎなんて掴めちゃいそう。
「好きなことなんてなにもできない人生だった」
と彼女は言った。健康な人間が好き勝手生きていると思ったら大間違い。お金が必要だし、好きな人は振り向いてくれないのが常。それも病気の人から見たら楽しいことなのだろう。
「オイルを拭き取りますね」
ペーパーを肌に貼り付け、余計なオイルを拭う。
彼女は黙って私の施術を受けてくれた。親のことをぼやく程度の不満しか彼女にはないのだ。
「自分たちで作っておいて、死んだら大泣きして。こっちの身にもなってほしいわ」
こんな子どもでもお金があれば宿泊させるのね。大女将の考えは一貫している。
オイルはちょっと高めの7000円。あっちと違って法律がないから消費税は取らないことにした。
「ありがとうございます」
このお金も彼女の両親が棺桶に入れてくれたものなのだろう。それを受け取って、私はまた新しいオイルと買うのだ。自分の半分も生きていなくても客は客。
オイルのコースを選択し、
「こういうの、夢だった。生きてるときは骨折するかもってだめだったの。今は死ぬほど体が軽い」
死んでますけどね。
私が背中に触れるたびにびくっとする。でも好きな匂いを選んでもらったから、その香りを深く吸い込む。
「もっと早く死ねたと思うんだよね。延命治療なんてしなくていいのに。しかも私が死んだ夜にうちの親、子作りしてるの。ウケる」
そうやって悲しみを紛らわせるしかできなかったのだろうに。それを伝えられるほど私は子どもではなかった。もっと若かったら一緒になって、
「大人ってバカね」
って言えるのに。
有難いことに、開店にあたってこっちでは人間界ではよくある面倒な開業届などの申請が不要。
子どもだからで足は細いし、お尻も小さい。彼女の言葉に同意しようか悩んだ。お客様だからってできないことはある。
「それだけ、悲しかったんでしょうね」
わかり合えない人とならわかりあえなくてもいい。
「うん」
と彼女は声を鼻水混じりに返答した。
「呼吸を私に合わせてください。吸って、吐いて」
「はい」
意外と素直。
死人だからなのか若いせいなのか、コリがなくて、揉みごたえもない。もっと凝り固まった体をほぐしてあげたいというのは私の願望でしかない。
私の手が大きいからふくらぎなんて掴めちゃいそう。
「好きなことなんてなにもできない人生だった」
と彼女は言った。健康な人間が好き勝手生きていると思ったら大間違い。お金が必要だし、好きな人は振り向いてくれないのが常。それも病気の人から見たら楽しいことなのだろう。
「オイルを拭き取りますね」
ペーパーを肌に貼り付け、余計なオイルを拭う。
彼女は黙って私の施術を受けてくれた。親のことをぼやく程度の不満しか彼女にはないのだ。
「自分たちで作っておいて、死んだら大泣きして。こっちの身にもなってほしいわ」
こんな子どもでもお金があれば宿泊させるのね。大女将の考えは一貫している。
オイルはちょっと高めの7000円。あっちと違って法律がないから消費税は取らないことにした。
「ありがとうございます」
このお金も彼女の両親が棺桶に入れてくれたものなのだろう。それを受け取って、私はまた新しいオイルと買うのだ。自分の半分も生きていなくても客は客。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!
夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。
そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。
同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて……
この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ
※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください
※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください
AIイラストで作ったFA(ファンアート)
⬇️
https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100
も不定期更新中。こちらも応援よろしくです
どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!
枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び!
天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。
手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。
互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。
堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。
天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……?
敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。
再び開幕!
*イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる