地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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悪気なく悪い男

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 石上さんの時計店は入り口が鉄製。この界隈には鬼も多いから用心のためだろう。商いをしているのは鬼がほとんどで人間が働いている店が多い。人間一人なのは石上さんのところだけではないだろうか。そう思っていたのに、鬼の子どもを弟子にしていた。
「用心棒のつもりだったのですが腕もいい。爪がすぐに伸びるのが厄介ですがそれを器用に使うんですよ」
 と目を細めて笑った。
 一心さんと話しているのを聞いていたら、その小鬼のために一心さんが閻魔様との間を取り持ってくれたらしい。本来は地獄にいなくてはいけない子なのだろう。手元を見ると時計の小さなパーツを種類別に爪にひっかけて分けていた。
 一心さんて、何者なんだろう。半分鬼で、こっちの世界では怪力でもないのに閻魔様が気に掛けている構図なのだろうか。芯しん亭がいい宿だからお金持ちの権力者だったりするのかな。
 壁掛けの時計は人間界の品に近い。されど、私の腕時計は針がおかしな動きをしたから、ここで売られているものは石上さんが少し弄っているのだろう。こっちの圧や地場に耐えられるように。
「なにをお探しですか、お嬢さん」
 小鬼にお嬢さんと言われると微妙な気分。
「タイマー付きのデジタルで、そんなに高くない時計あるかしら?」
「ん」
 とおにぎり型の時計を手渡してくれた。
「ありがとう」
 店内を一周したけれど、その子が渡してくれた時計が一番ぴったり。お客さんの気持ちになれる察し上手さん。見習わなくては。着物の色から女の子かなと思ったが男の子らしい。
「これにします」
 1200円とお手頃価格。
 こちらに来るまで鬼って怖い顔をしているのかと決めつけていたけれど、怖いというよりはきりっとしている。女性の鬼は妖艶で男性もどこか色っぽい。
「ツケで構わんぞ。店で使うものなのだろう?」
 と一心さんが言ってくれる。
「やっぱりこっちにも経費ってあるの?」
「経費とは?」
 石上さんが説明をしてくれたが、こちらには経費という考えがないらしい。人の世界がややこしいのかな。
 払うと言ってきかないので、そうしてもらった。
「ありがとうございました。これ、保証書ね」
 そういうところは人間界と同じなのだ。
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