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閻魔様からのデートの申し込み

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 車で待ってくれていた運転手の鬼さんにタピオカを買って戻った。
「のどに詰まりそうな飲み物だ」
 閻魔様が咳き込む。
「甘いです」
 運転手さんには甘すぎのよう。より甘い、黒蜜きな粉にしてごめんなさい。
 私の店では甘いものは控えよう。でも女の子たちは食べる。これはリサーチをしなければ。
 車が動き出すと見た顔にすれ違った。振り返って、その元気そうな姿にほっとした。

「知り合いか?」
 閻魔様が聞く。
「姉です」
「車を停めるか?」
「いいえ、大丈夫です」
 手紙を書いたばかりだし。
「声はかけぬのか?」
「いいんです」
 姉は幼馴染の創ちゃんと一緒だった。あの感じでは、私がいなくてもくっついていないようだ。
 好き合っていてもどちらかが勇気を出さないとうまく運ばない、それが恋愛だ。
 過去に同級生から、
「付き合って」
 と言われ、程なくすると、
「やっぱやめよ。つまんね」
 って別れを切り出されたことが2回あるだけの私。
 相手に好かれようと思って自分をさらけ出さないでいたらつまらないと言われる。むつかしいものだ。本当のことも話せない。
 男の人の手を見つめてしまう。閻魔様の手はきれい。こんな私を受け入れてくれる人、いるのだろうか。
「では、帰るとしよう」
「はい、ありがとうございます」
 私は雑貨店でも電気屋さんでも商品を見ていたが、閻魔様は人間を見ていたように思う。地獄にもテレビはあるだろう。でも実際の人間はまた違う。昔の人間よりは残酷ではないはず。しかし、残極な部分が消えないのも人間だ。
 行きが上りだったから、帰りは下り。真っ逆さまだ。

 落ちるのは一瞬。
「本当なら、一心のところである程度の審査をしてほしいと思っているのだが、彼奴(あやつ)に断られて早100年。自分にはその資格がないと」
 帰り道で閻魔様が言った。
「それは私もしたくないです」
 望んでやる人などいるのだろうか。感情がある人間にはむつかしいだろう。知り合いだったら特に甘くしてしまいそう。
「あいつとはどうなんだ?」
「一心さんですか?」
「婚儀の際は儂も出席させてくれよ」
 そうか。婚約をしているから結婚すると周りは思っている。キスはする。でも一心さんはきっとまだ前の奥さんたちのことが好きなのだろう。キスをしたからわかることもある。私に好意があったら、あんなことしないもの。
 好きでもない男の唾液を舐める私もどうかと思うけど。やばっ、顔熱い。
 あれこそ修行だ。
 キスは嫌いじゃないし、一心さんも嫌いじゃない。でも私たちは、一緒にはいられないと思う。望むものが違う。
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