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閻魔様からのデートの申し込み

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「おい、人間界に買い物に行く。お前、ついてこい」
 突然、閻魔様が来て私を指さした。
「え?」
 ドクダミを吊るして乾燥させているときだった。お茶にもマッサージにも使える。

 閻魔様の言いつけなので断ることは許されず、
「私も一緒に」
 と心角さんが申し出てくれたのに、
「使いはうちの者で充分だ」
 と断られてしまった。
 今里ちゃんも行きたそうだったが、手はあげなかった。生きているきょうだいのことが気になるのだろう。しかし、会ったところでもう一緒には暮らせない。

 私は閻魔様の車に乗った。運転手付きの高級車。
「今日は四駆じゃないんですね」
 後部座席に閻魔様と二人では緊張する。
「人間界はごみごみしていて道に迷う。スピードも出せんしな」
「なるほど」
 流石は閻魔様、第一の門を通るのも顔パスだ。
「一心は見送りに来なかったな。姿がなかった」
「お風呂の掃除が終わって火をくべる時間なのでしょう。あれば一心様のお役目ですから」
 一心さんは毎日同じような生活をしている。仕事、見回りという名の徘徊、仕事、たまに休息。
「そうか」
 閻魔様は一心さんのことを気にかけてくれているように思う。
「ところで、閻魔様は何用で人間界に?」
 私は聞いた。
「偵察じゃ。ほら、上にのぼるぞ。気を付けて座っておれ」
 急こう配の山道をぐるぐる回るがごとく、車は進む。
「こんなところ通って来てませんよ」
「エレベーターは便利だからな」
 そうだった。確かにエレベーターで降りてきたが、こんなところを通って来たのかと思うとぞっとする。
「運悪くエレベーターが止まって途中で閉じ込められたらどうするんですか?」
「もう死んでいるのに?」
 そうだった。私以外の人は死人だ。生きている人には会っていない。一心さんたちはこっちの住民だし、鬼だ。
「一心さんは違いますよね?」
 心角さんや調理人にも鬼がいる。大女将もそうなのだろう。顔が鬼っぽい。
「一心の母親は人間だ。おばあが人間の女の子と鬼の男子を引き取って子どもとして大事に育てたのに二人は好き合ってしまって」
「禁忌なのですか?」
 私は聞いた。
「100年ほど前からぼんやり良くなってきてはいるんだが、結局は鬼は人を食うし、あれやこれやを経てからでないと夫婦の契りも交わせないから」
 私の唾液問題と同じことなのだろうか。
 一心さんのことを他の人から聞くのは筋が違うのだろうけれど、本人も周りの人も話してくれないんだもの。
「婚約者のことが気になるか? それとももう子ができるような間柄か? 鬼の子は怖いぞ。母の産道を食いちぎって出てくるからな。儂がそうだった」
「え、いや、その…。え?」
 なんでそんな怖いことを言うのだろう。
「ほうら娘、お前の人間界だぞ」
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