地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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気まずい関係

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「瑠莉さま、それでは一心様の部屋へ参りましょう」
 心角さんがあとをついてくる。こんなことは初めてだ。
 花がぼんやり光ってくれて、懐中電灯代わり。
 重いのに持ってくれない。つまり、心角さんは大女将の言いつけを守る人。

「失礼いたします」
 いつもなら両手が塞がっている私のために襖を開けてくれるのだが、今日は心角さんがその役目。
 部屋では一心さんが寝ていてびっくり。こっちはまだ夕食もいただいていないのに。
「今日が新月なんです」
 心角さんが言った。
「それと関係が?」
 私は聞いた。
「新月の夜になると一心様は起きていられないようで」
「ここからでは月が見れないのに?」
「見てください」
 ぼんやりとしてろうそくの明かりのもとで、心角さんが一心さんの前髪をどかした」
「角がない?」
「そうなのです。恐らくは新月の夜にだけ一心様は完全に人間になってしまわれるのかと。そして生身の体ではここにいるのさえ辛く、眠って体力を温存しているようです」
 心角さんの角はちゃんとある。そもそも一心さんの角は皮膚と骨の間の不完全なものなのだ。
「冬眠のようなものに近いのでしょうか?」
 呼吸も荒いように感じる。
「さあ」
 私が自分の力がわからないように、一心さんも己の力に怯えているのかもしれない。
「でも月のパターンならわかりやすくていいですね」
「は?」
「だって、検索すれば出てくるでしょう?」
 私はタブレットを指さした。
「私はそういうものには疎くて」
 心角さんの弱点を初めて見つけた。
「じゃあ、あっちに戻ったらそういうカレンダーを送りますよ。どこかにあったはずだから」
 あっちのお酒がこっちに届くのだから、荷物は簡単に送れるのだろう。メールでのやり取りも可能かもしれない。
「瑠莉様はいつか帰ってしまうような言い草ですね」
 心角さんに言われてどきりとした。

 だって、無理ですよ。ここは私が生きる場所じゃない。こんなに働いているのに、まだ足元はふわふわしているの。
 一心さんの力と月の因果関係は大女将でもわからないそうだ。
「日が昇るまでです。それまではこの身に代えてお守りいたします」
 心角さんがそう言うので、私はみんなのところに戻ってやっとごはん。
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