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気まずい関係

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 それから庭へ行って見物客をチェック。こちらの住民は飽きっぽいのか今日はお客さんもまばら。私たちのように住んでいる人は少ない。死に人はすぐに地獄へゆくし、死んだばかりの人が花を珍しがるとは思えない。地獄の鬼は死人を苦しめることしか考えないから花に興味はないようだ。門と門の間に暮らす人や鬼にとってだけの癒し。珍しい花を見たところで、美しいと思うだけ。自分のものにはならないし、私には多少なりとも関係のあることなのかもしれないが、他の人にはただの花。
 これくらいの人数ならば珠絵ちゃんと今里ちゃんに任せてよう。

 この時間、もう部屋の準備も済んでいるだろうし、お風呂に入っているお客人もいるだろう。脱衣所を見回って、掃除をすれば夕食を運ぶ時間になるかしら。
「瑠莉ちゃん、おかえり。今日は女性のお客様はいないから大浴場に浸かってもいいって」
 廊下ですれ違いざま、麻美さんが嬉しそうに報告する。
「はい」
 広いお風呂に入れるのはお客様がいない日限定。
「難しい顔しちゃってどうしたの?」
 麻美さんが私の顔を覗き込む。
「ううん」
「二人とも、手伝って」
 と澪さんから声がかかる。お膳を各部屋に運ぶのだ。今日は8部屋だから四人で二往復。おかわり用のおひつとお茶を持ち、更にもう一回。お酒の注文を受ければ都度客室へ向かう。

 たまたま都村さんの配膳が私だった。彼はお膳に少しも手をつけていなかった。
「どうさかされましたか?」
 私は聞いた。
「いえ、食欲がないだけです。バカですよね、僕。憧れていた先輩が亡くなってしまって、辛くて、すぐに後を追ったんです。会うことはできましたが、気持ちを伝えたら『気持ち悪い』って。この服も先輩が成人式のときにすごく似合っていたから同じものを買って、勇気を出して会いに来たのに」
 悲しみが怒りに変わる瞬間を見てしまった。憎悪というものに限りなく近い。
 無駄死にという言葉を互いに飲み込む。
「伝えただけ立派ですよ。私は言えませんでしたから」
 私は言った。
「お姉さんにも好きな人が?」
「ええ、はい。でもその人、私の姉のことが好きみたいで。お花屋さんなんですよ」
 私たち姉妹の幼馴染である創ちゃんは姉と好き合っているようだが、姉はうちを継がなければならないと考えているし、彼にも家業がある。優しいがゆえに二人とも踏み出せないようだ。
「しょうがないことってありますよね」
 都村さんにとってはどれがそれなのだろう。愛されないことだろうか。
「少しでいいので食べてください。おいしいですから」
「はい」
 ハンバーグを口に運ぶと微笑んだ。亡くなった人が若いと料理長さんはメニューを変えてくれている。素晴らしい心遣いだと感心する。亡くなった人のことを調べることはむつかしくないから好物を作ってくれているのかもしれない。
「では、なにかありましたらお呼びください。失礼いたします」
 私だったら最後の晩餐はカロリーを気にせずに甘いもの三昧かな。死んだら糖分も関係ないし。
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