地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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気まずい関係

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「集まって何事だ?」
 一心さんが私たちに声をかけ、凌平くんが事の経緯を説明する。

「そういうわけなので、俺と瑠莉先輩でちょっと様子を見てきます。一心さんとじゃ目立つし。行きましょ、先輩」
 凌平くんに手を引かれ、芯しん亭の裏口から出た。
「いたわ」
 都村さんはきょろきょろと周囲を見渡している。この時刻は人の往来が激しい。なにせ、門に向かっての一本道だ。人波に向かって、第一の門のほうに歩いているということは戻りたいのだろうか。無理なのですよ。第一の門もそろそろ閉まる。つまるところ、ここは袋小路。
 尾行はこっちの世界では罪じゃないのかなんて、すぐにそういうことを考えるようになってしまった。
「誰か探してるようです」
 凌平くんが彼の行動を伝えてくれる。私は下駄で、凌平くんは草履なのに私の頭一つ分背が高い。
 毎日、この通りはお祭り騒ぎだ。人の体でいられる最後の日。第二の門をくぐれば、各々の箇所で鬼や獣になぶられ続け、それでも死ねずに恐怖をひたすら繰り返す。考えただけで苦痛だ。
 都村さんが、手を振っているのが人の肩の隙間から見えた。
「誰だろう?」
 道の端に寄って、都村さんともう一人の男の人が話すのが見えた。
「俺は面割れてませんから」
 凌平くんがそれとなく彼らに近づく。私のポジションからも二人が楽しそうに話し込んでいるのは見えた。いや、楽しそうなのは都村さんだけだ。相手の男性も若そう。それで、引いている? 怒っているようにも見えた。
「一方的に都村さんが話してたけど、よく聞こえなかった。相手のことは『先輩』って呼んでいましたよ」
 しれっと私の横に戻った凌平くんが報告してくれる。
「見て」
 私は目配せをした。都村さんと先輩は別れ、でも都村さんは振り返ってずっと彼を見ていた。
「好き、なのかな?」
 凌平くんが言った。
「え?」
「だって、好きな人って見ちゃうでしょ?」
「まぁ、それはわかるけど」
「それにあの二人、同じような服着てました」
 それは私も思った。好きな人の好みに合わせたい気持ちもわかる。
「凌平くんって意外と観察眼あるのね」
 短時間でよく推理できるものだ。

「瑠莉先輩、そろそろ戻りましょう」
 都村くんに見つかっては困る。買い物に来たと言い訳をすればいいが、言い訳も嘘になる。こちらで罪を重ねたくない。
 ああ、だからいつも澪さんは本音を隠さないのかもしれない。今里ちゃんは口が悪いだけ。
「帰りました」
 厨房はもう夕食の準備の真っ最中。
「凌平、手洗ってこっち手伝え」
「はい、すいません」
 会釈で互いにごめんねと合図した。
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