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気まずい関係

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 快眠が続いている。現世では金縛りにあってばかりで眠りが浅かった。睡眠なのに逆に体も疲れる状態で、恐ろしいもの間で見えてしまうから夜が怖いほどだった。こっちの睡眠は本当に体を休息させる。安眠の理由はわからない。向こうでだってバイトをして実家の神社の手伝いもしていた。そこそこ疲れてはいたけれど、何が違うのだろう。

 芯しん亭の庭の隅にある納屋もだいぶ片づいて、什器備品も揃いつつあった。まずはマッサージかエステと思っていたのに策略家の大女将が噂を流し、
「芯しん亭に花が咲いてるってよ」
「そりゃ縁起がいいな」
 ってな具合に人々が花を見に集まりつつあった。
「あの花を見ると願い事が叶うんだって」
 どこの世界も女の人はそういうのにつられる。若そうな女の子の鬼まで芯しん亭の庭にやって来た。裏の勝手口を解放することは滅多にないらしい。
 鬼というのは悪い死に人のなかで選抜されてなるようだから、美人の鬼さんもかなり悪いことをしたのだろう。門よりこちらにいる鬼さんは、人間を痛めつけるのに疲れてしまった鬼としては心の弱い人。元々が人間なのだから暴力が好きだったりサイコパスばかりではない。鬼だからなのか、女性は普通の人間よりもスタイルがいい。筋力が発達しているからだろうか。ぼん、きゅ、ぼんばかりで私にも眩しい。
閻魔様の承諾も得て、夜に花見会が行われることになり、そのために一心さんは長椅子をいくつも作った。
「一心さん、お疲れさまです。お茶です」
 縁側にも人が座れるように座布団が並んでいる。色とりどりで、そちらのほうが花畑のようだ。
「ありがとう。痛っ」
 手を金槌で打ってしまったようだ。
「大丈夫ですか?」
「鬼の血のせいなのかすぐに治る」
 赤みは数秒で消えた。
「便利ですね」
「便利なのか?」
 一心さんが元通りになった指を曲げる。
「よっ、御両人」
 私たちが一緒にいたらそう冷やかしたくもなるのだろう。相手が泊り客だから一心さんは文句も言えない。
「失礼いたします」
 と私は逃げた。
 私は花咲嫁だから、私が花を咲かせているとみんなは思っている。そんな能力ないのに。他の困った力ならあるが。
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