地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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死にきれない小説家

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 本物の地獄を会沢さんはどんな文章にするのだろう。想像ではなく体験したことをささっと文字に紡いでいるのだろうか。
 夕飯を運んでぞっとした。
「お食事をお持ちしました」
 と言っても会沢さんは無反応。浴衣からはきれいな足が伸びている。細くてきれいな人なのだ。
 それに、集中をしている横顔は美しい。
 私はお膳を置いて部屋を出た。
 食事はちゃんと食べてくれたし、お風呂にも入っているようだ。一心さんを呼んで。
 それで数日後、
『絶望の淵で君を待ってる』
 という本を書き上げて、一心さんに渡した。

 それを見計らったように閻魔様が迎えに来た。
「お世話になりました」
 会沢さんは彼女のファンのおかげで情状酌量になったらしい。死んでも尚、本が残るなんて、それが人を感動させるなんて羨ましい。
 火にあぶられようとも、それがどういうことなのか経験して、また力強い小説を生み出すのだろう。
 会沢さんががんばるなら、私もがんばる。文子さんの本にサインだけもらった。
 うっかり症の私は、『闇落ち』について聞き逃した。もしかしたら会沢さんよりも閻魔様のほうが詳しいかもしれない。地獄よりも怖い場所があるのだろうか。
 地獄は怖いものだと思っていた。でも会沢さんのように扉の向こうでも楽しんでいる人がいるのだとわかると、私もそうなりたいと考えてしまう。
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