地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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死にきれない小説家

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 地獄の各場所が見渡せるところに閻魔様が車を停める。
「ああ、楽しい。脳が久々に新しい影響を受けている感じがする。もう死んじゃったのに小説家ってバカな生き物だ」
 会沢さんは笑顔。私は酔いと人の叫び、匂いにやられた。一心さんは無口に拍車がかかる。
「酔った?」
 私がこめかみをほぐしていると一心さんが頭を撫でてくれた。
「平気です」
「申し訳ないが俺はそれほど力が強くない。お前のほうが…」
 疲弊している私をよそに、
「大蛇見せたかったな。すごくでかいんだぞ。気分屋だから今日は姿を見せなんだが」
 と閻魔様と息巻く。
「大蛇? 見たかった」
 会沢さんは少し、というかかなりの変人。
 地獄ツアーは不定期で開催されているらしい。宿にわけあって長期滞在する人の暇つぶしのようなもの。しかも、お金もかかる。
 生きている人間ならばお金を払ってでも見たい人はいるかもしれないが、宿に泊まっている人にとっては自分の行く末だ。見たい理由もわからない。
 会沢さんはずっと楽しそう。メモを止めない。鳥肌が立つ理由さえも文字にする。自分が感じたことを忘れないと筆先を動かす。
「戻ろう」
 と閻魔様に促されても、
「もうちょっと」
 と今度はささっと絵を描く。生きていたら来られない、見れない場所。想像よりもおどろおどろしい。

 会沢さんを説き伏せて芯しん亭に帰って来た私は心底ほっとした。匂いも薄まった。頭痛も軽減。
「お茶淹れますね」
 この中ならば私が淹れるしかない。
「コーヒーがいい」
 会沢さんがそう言うので従った。頭がぼんやりして考えられなかった。そもそもあっちの世界でもコーヒーを飲む習慣が私にはなかった。香りは好き。
「お待たせしました」
「ありがとう」
 閻魔様でもコーヒーを嗜むのだ。
「うまい」
 と絶賛。
 一心さんはブラック。インスタントのコーヒーはお好きではないみたい。普通のごはんはいつも文句なく食べているが、もしかしたら好き嫌いが激しいのかもしれない。
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