地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

文字の大きさ
上 下
30 / 99
死にきれない小説家

29

しおりを挟む
 地獄の各場所が見渡せるところに閻魔様が車を停める。
「ああ、楽しい。脳が久々に新しい影響を受けている感じがする。もう死んじゃったのに小説家ってバカな生き物だ」
 会沢さんは笑顔。私は酔いと人の叫び、匂いにやられた。一心さんは無口に拍車がかかる。
「酔った?」
 私がこめかみをほぐしていると一心さんが頭を撫でてくれた。
「平気です」
「申し訳ないが俺はそれほど力が強くない。お前のほうが…」
 疲弊している私をよそに、
「大蛇見せたかったな。すごくでかいんだぞ。気分屋だから今日は姿を見せなんだが」
 と閻魔様と息巻く。
「大蛇? 見たかった」
 会沢さんは少し、というかかなりの変人。
 地獄ツアーは不定期で開催されているらしい。宿にわけあって長期滞在する人の暇つぶしのようなもの。しかも、お金もかかる。
 生きている人間ならばお金を払ってでも見たい人はいるかもしれないが、宿に泊まっている人にとっては自分の行く末だ。見たい理由もわからない。
 会沢さんはずっと楽しそう。メモを止めない。鳥肌が立つ理由さえも文字にする。自分が感じたことを忘れないと筆先を動かす。
「戻ろう」
 と閻魔様に促されても、
「もうちょっと」
 と今度はささっと絵を描く。生きていたら来られない、見れない場所。想像よりもおどろおどろしい。

 会沢さんを説き伏せて芯しん亭に帰って来た私は心底ほっとした。匂いも薄まった。頭痛も軽減。
「お茶淹れますね」
 この中ならば私が淹れるしかない。
「コーヒーがいい」
 会沢さんがそう言うので従った。頭がぼんやりして考えられなかった。そもそもあっちの世界でもコーヒーを飲む習慣が私にはなかった。香りは好き。
「お待たせしました」
「ありがとう」
 閻魔様でもコーヒーを嗜むのだ。
「うまい」
 と絶賛。
 一心さんはブラック。インスタントのコーヒーはお好きではないみたい。普通のごはんはいつも文句なく食べているが、もしかしたら好き嫌いが激しいのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

妖狐

ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。) 妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。 妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。 【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。 【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫> 【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14 【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件> 【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡> 【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)> 【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗> 【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡> 【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡> 【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々> 【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門> 【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)> 【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)> 【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次> 【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。 【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。 【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。 <黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。 【旅立ち】 ※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。 ※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。  もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。  2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香
キャラ文芸
私、三浦由衣二十五歳。 付き合っていた筈の会社の先輩が、突然結婚発表をして大ショック。 不本意ながら、そのお祝いの会に出席した帰り、家の近くの神社に立ち寄ったの。 お稲荷様の赤い鳥居を何本も通って、お参りした後に向かった先は小さな狐さんの像。 狛犬さんの様な大きな二体の狐の像の近くに、ひっそりと鎮座している小さな狐の像に愚痴を聞いてもらった私は、うっかりそこで眠ってしまったみたい。 気がついたら知らない場所で二つ折りした座蒲団を枕に眠ってた。 慌てて飛び起きたら、袴姿の男の人がアツアツのうどんの丼を差し出してきた。 え、食べていいの? おいしい、これ、おいしいよ。 泣きながら食べて、熱燗も頂いて。 満足したらまた眠っちゃった。 神社の管理として、夜にだけここに居るという紺さんに、またいらっしゃいと見送られ帰った私は、家の前に立つ人影に首を傾げた。

美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。 「いつかきっとまた会おうね」 約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。 実は子狐は一年前に亡くなっていた。 朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。 美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

処理中です...