地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

文字の大きさ
上 下
29 / 99
死にきれない小説家

28

しおりを挟む
 助手席に会沢さん、うしろに私と一心さんを乗せた車が急発進。閻魔様、ちゃんと教習所通ったのかしら。
「外車が好きなんだけどやっぱり地獄は四駆じゃないとね。タイヤも特別仕様なんだ。溶けないやつ」
 閻魔様の言う通り、門を過ぎたら荒れ地だった。
「暑っ」
 会沢さんが窓を開けるから熱さ倍増。しかも、
「くっさ」
 と私は言ってしまった。
「血の池地獄の匂いだ。人間は心臓が止まると内臓がすぐに腐る。もうすぐガタガタするよ、その次は急カーブ」
 閻魔様が楽しそうに運転する。激しい振動と匂いで私は酔いそう。
「閻魔様、どこ行くの?」
 会沢さんはノート片手にずっと何かを書いている。
「暑い地獄と寒い地獄どっちがいい?」
 閻魔様が分かれ道前で停止する。
「虫はやだ。寒いのもやだ」
 会沢さんは発言がはっきりしている。
「じゃあ暑いほうで」
 一心さんは黙ってずっと窓外を見ていた。
「一心さんは来たことあるんですか?」
 私は聞いた。
「ああ、うん」
「子どもの頃、オヤジさんを探しに来たんだよな。俺が知らないんだからここにはいないって言ったんだけど聞かなくて。人の不幸が大好きな手下の鬼どもまでそいつにほだされて一緒に探す羽目に。うしろの男、鬼と人間のハーフ」
 閻魔様と一心さんは顔見知りのようだった。商売上、付き合いがあるのだろう。
「へえ、本当にいるんだ」
 会沢さんは芯しん亭にいるときとは違い、声が弾んでいる。一心さんに血液型や生活習慣を質問しまくる。ずっとノートになにか書いているから新しい小説のネタでも浮かんだのだろう。
地獄だから鉄板の上で人が踊っていたり、遠くから叫び声が聞こえた。罪人といえども人だから、思わず私は目を逸らした。
「あっ、犬」
 会沢さんが窓外を指さす。
「犬に鬼の血が入ったものだ。そなたの指など一秒で食われる。窓をしめなされ」
 閻魔様のくせに優しい。
「地獄ってケガしても死なないんでしょ?」
 会沢さんの言葉が私には理解ができない。
「どういうこと?」
 私は一心さんに聞いた。
「あの犬に食いちぎられてもすぐに再生される」
「すごい」
「体は治ってもまたひどい目に遭って殺される。でも痛みはあるし、死なないの繰り返し。ちなみにお前は死んでないから生き返れないぞ」
 地獄のシステムってすごい。
「だから拷問が繰り返されるのね」
 車はでこぼこ道をそこそこのスピードで走る。だから、上下左右に揺れる。
「わっははは」
 会沢は楽しそう。私は大きなカーブのたびに足に力を込めても一心さんにぶつかってしまう。
「大丈夫か?」
 肩を抱かれて、こうやっているほうが振動が吸収される。でも、ドキドキしちゃう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

サラシ屋

雨宮 瑞樹
キャラ文芸
恨む相手を、ネットで晒し、社会的制裁を加えるサラシ屋に舞い込む事件は…… 前作と繋がりはありますが、独立して読めます。 前作『サラシ屋0』はこちら。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/531799678/181860727

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...