地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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死にきれない小説家

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 助手席に会沢さん、うしろに私と一心さんを乗せた車が急発進。閻魔様、ちゃんと教習所通ったのかしら。
「外車が好きなんだけどやっぱり地獄は四駆じゃないとね。タイヤも特別仕様なんだ。溶けないやつ」
 閻魔様の言う通り、門を過ぎたら荒れ地だった。
「暑っ」
 会沢さんが窓を開けるから熱さ倍増。しかも、
「くっさ」
 と私は言ってしまった。
「血の池地獄の匂いだ。人間は心臓が止まると内臓がすぐに腐る。もうすぐガタガタするよ、その次は急カーブ」
 閻魔様が楽しそうに運転する。激しい振動と匂いで私は酔いそう。
「閻魔様、どこ行くの?」
 会沢さんはノート片手にずっと何かを書いている。
「暑い地獄と寒い地獄どっちがいい?」
 閻魔様が分かれ道前で停止する。
「虫はやだ。寒いのもやだ」
 会沢さんは発言がはっきりしている。
「じゃあ暑いほうで」
 一心さんは黙ってずっと窓外を見ていた。
「一心さんは来たことあるんですか?」
 私は聞いた。
「ああ、うん」
「子どもの頃、オヤジさんを探しに来たんだよな。俺が知らないんだからここにはいないって言ったんだけど聞かなくて。人の不幸が大好きな手下の鬼どもまでそいつにほだされて一緒に探す羽目に。うしろの男、鬼と人間のハーフ」
 閻魔様と一心さんは顔見知りのようだった。商売上、付き合いがあるのだろう。
「へえ、本当にいるんだ」
 会沢さんは芯しん亭にいるときとは違い、声が弾んでいる。一心さんに血液型や生活習慣を質問しまくる。ずっとノートになにか書いているから新しい小説のネタでも浮かんだのだろう。
地獄だから鉄板の上で人が踊っていたり、遠くから叫び声が聞こえた。罪人といえども人だから、思わず私は目を逸らした。
「あっ、犬」
 会沢さんが窓外を指さす。
「犬に鬼の血が入ったものだ。そなたの指など一秒で食われる。窓をしめなされ」
 閻魔様のくせに優しい。
「地獄ってケガしても死なないんでしょ?」
 会沢さんの言葉が私には理解ができない。
「どういうこと?」
 私は一心さんに聞いた。
「あの犬に食いちぎられてもすぐに再生される」
「すごい」
「体は治ってもまたひどい目に遭って殺される。でも痛みはあるし、死なないの繰り返し。ちなみにお前は死んでないから生き返れないぞ」
 地獄のシステムってすごい。
「だから拷問が繰り返されるのね」
 車はでこぼこ道をそこそこのスピードで走る。だから、上下左右に揺れる。
「わっははは」
 会沢は楽しそう。私は大きなカーブのたびに足に力を込めても一心さんにぶつかってしまう。
「大丈夫か?」
 肩を抱かれて、こうやっているほうが振動が吸収される。でも、ドキドキしちゃう。
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