地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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死にきれない小説家

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 それからも毎日のように会沢さんは一心さんをご指名。
 一心さんも嫌そうなそぶりは見せない。会沢さんの機嫌がどんどん良くなって、部屋に布団を敷いてほしいときなどに声をかけてくれるようになった。
「ずっと人に騙されていた人生だった。恋人のような人にお金を任せたら持ち逃げしちゃうし、出版社の人にはそのことで脅迫されて小説を書かされた。まだ自分の名前で出しているときは良かった。巨匠から新人作家のゴーストまでやらされて、官能小説もラノベも書いた。楽しかったけどね。この歳になるまで小説ばかり書いていたのにお金は版元に取られるし、そのことで親族からも見放されて。それなのに、ファンの人がお別れ会をしてくれてね。おかげでたくさんの香典が集まったらしい。子どもから千円巻き上げて喜ぶ汚い大人しか私の周りにはいなかった」
 背を向けて、髪が顔を覆って、泣いているのか笑っているのかもわからない。
 純粋すぎたのだろう。でも、だからこそずっと小説が書けたのだと本人もわかっている。
「私も死んだら、自分の人生は悪くなかったって思いたいです」
 私の言葉に、
「うん」
 と頷いた。
 そうか。お金があればここに長居することも可能なのだ。私だったら部屋のランクを落として門の向こうに行く日を先延ばしにするが、結局地獄に行ってしまえば辛い日々が待っているから遅いか早いかだ。あっちの時間はとても長い。兆年のお沙汰が出る人も少なくないとこっちに来るときに説明を受けた。

 会沢さんが少しずつご飯も食べてくれるようになった頃、閻魔様が話し合いに来た。どうやら会沢さんは地獄に落ちたことが不服らしい。不幸続きの人生だったから、それを考慮しろと直訴の手紙を書いていた。そして閻魔様も一度決まったことは覆らないと引いてくれない。どちらの言い分も正しい気がして、だから私はどちらの肩も持たずにいた。
「それが無理ならこれ行きたい」
 と会沢さんが地獄ツアーのパンフを閻魔様見せる。ここに来るまでのエレベーターにあったチラシだ。あんなの行きたい人いるのだろうかと思ったが、ここにいた。8千万円という価格にもびっくり。死んでからどうやって支払うのだろう。
 閻魔様のことは勝手に縦にも横にも大きくて、怒り狂って髭が長いと想像していたが、髪はまとめ、しゅっとしていてお腹は出ていない。むしろ美形。私が一時はまったゲームの推しに似ている。
「いいですね。では私の車で行きましょうか。一心とそちらのお嬢さんにも話があるのでどうだい?」
 と閻魔様に誘われて、
「はい、喜んで」
 と私ではなく大女将が返答してしまった。
「そういうわけで行ってくるよ、お前たち」
「閻魔様っ」
 お供の鬼から鍵を奪い、閻魔様はエンジンをかけた。
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