22 / 99
見誤る
21
しおりを挟む
丸一日、私は眠っていたらしい。
文子さんがいなくなってしまったことは一心さんがうまく説明をしてくれたらしいのだが、私まで寝込んでは他の人たちが働き通しということだ。
「寝ていたほうがいい」
大女将の薬膳茶はおいしくなくて、しかし私の細胞深くに染み込んでゆく。
「私…」
なにをしてしまったのだろう。記憶は朧気だ。でもこの状況が真実を突きつける。
文子さんを消した。昔の、あのときのように。
「霊力が落ちている。ここでは息をするのも辛かろう」
大女将は鼻の穴が大きくて、下から見ていると闇のよう。
「ここ、客室? いけません」
はっとして起き上がろうにも、体が無理だった。
「大丈夫。普段は使っていない部屋だ」
大女将だけがいた。
「一心さんは?」
「お前さんのために消化にいいものを作っている」
ほら、やっぱり優しい。
「…文子さんは?」
恐る恐る私は尋ねた。
「無に引き込まれたようじゃ」
「無? それは私のせいですか?」
「いかにも」
そこで一心さんが入って来て、大女将は部屋を出て行った。
「ありがとうございます」
と大きな声で言ったつもりだが伝わっているかはわからない。
「大丈夫か?」
一心さんが座ると出汁の匂いが広がって、お腹が空いていたことに気づく。
「すいません、一心さん。私、記憶がぼんやりで」
「俺にも何が起きたのか…」
「でも、文子さんはいないんでしょう?」
それが事実だ。
「止められなくてすまない。ほら、食え」
と温かい月見そうめんをおぼんごと渡された。
「いただきます。おいしい」
その部屋は他の部屋以上に空気がきれいな気がした。浄化されすぎて、普通の人には息苦しいから客室にできないのかもしれない。
そうめんを食べたらお腹の奥が温かくなって、血液が体中に運ばれてゆくのがわかった。
「すごい力だ」
一心さんが怯えた目で私を見る。
「よくわからなくて。普段から何かを消してしまうわけではないですよ」
手に持った湯呑みは消えない。
「あっちの世界で悪用されたりは?」
「祖父以外は知らないので」
そもそも何が原因なのか私自身がわかっていない。
「食べ終わったか? もう、寝なさい」
一心さんの声が優しい。
「はい。明日からは働けますので」
「無理はするな」
部屋の蝋燭を消して一心さんも出て行った。
布団で横になりながら、そういえば珠絵ちゃんに助言されていたことを思い出したけれどもう眠い。
こうなると私はもうだめなの。眠くて、瞼が重い。
文子さんがいなくなってしまったことは一心さんがうまく説明をしてくれたらしいのだが、私まで寝込んでは他の人たちが働き通しということだ。
「寝ていたほうがいい」
大女将の薬膳茶はおいしくなくて、しかし私の細胞深くに染み込んでゆく。
「私…」
なにをしてしまったのだろう。記憶は朧気だ。でもこの状況が真実を突きつける。
文子さんを消した。昔の、あのときのように。
「霊力が落ちている。ここでは息をするのも辛かろう」
大女将は鼻の穴が大きくて、下から見ていると闇のよう。
「ここ、客室? いけません」
はっとして起き上がろうにも、体が無理だった。
「大丈夫。普段は使っていない部屋だ」
大女将だけがいた。
「一心さんは?」
「お前さんのために消化にいいものを作っている」
ほら、やっぱり優しい。
「…文子さんは?」
恐る恐る私は尋ねた。
「無に引き込まれたようじゃ」
「無? それは私のせいですか?」
「いかにも」
そこで一心さんが入って来て、大女将は部屋を出て行った。
「ありがとうございます」
と大きな声で言ったつもりだが伝わっているかはわからない。
「大丈夫か?」
一心さんが座ると出汁の匂いが広がって、お腹が空いていたことに気づく。
「すいません、一心さん。私、記憶がぼんやりで」
「俺にも何が起きたのか…」
「でも、文子さんはいないんでしょう?」
それが事実だ。
「止められなくてすまない。ほら、食え」
と温かい月見そうめんをおぼんごと渡された。
「いただきます。おいしい」
その部屋は他の部屋以上に空気がきれいな気がした。浄化されすぎて、普通の人には息苦しいから客室にできないのかもしれない。
そうめんを食べたらお腹の奥が温かくなって、血液が体中に運ばれてゆくのがわかった。
「すごい力だ」
一心さんが怯えた目で私を見る。
「よくわからなくて。普段から何かを消してしまうわけではないですよ」
手に持った湯呑みは消えない。
「あっちの世界で悪用されたりは?」
「祖父以外は知らないので」
そもそも何が原因なのか私自身がわかっていない。
「食べ終わったか? もう、寝なさい」
一心さんの声が優しい。
「はい。明日からは働けますので」
「無理はするな」
部屋の蝋燭を消して一心さんも出て行った。
布団で横になりながら、そういえば珠絵ちゃんに助言されていたことを思い出したけれどもう眠い。
こうなると私はもうだめなの。眠くて、瞼が重い。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
妖しい、僕のまち〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜
詩月 七夜
キャラ文芸
僕は十乃 巡(とおの めぐる)。
降神町(おりがみちょう)役場に勤める公務員です。
この降神町は、普通の町とは違う、ちょっと不思議なところがあります。
猫又、朧車、野鉄砲、鬼女…日本古来の妖怪達が、人間と同じ姿で住民として普通に暮らす、普通じゃない町。
このお話は、そんなちょっと不思議な降神町で起こる、僕と妖怪達の涙あり、笑いありの物語。
さあ、あなたも覗いてみてください。
きっと、妖怪達と心に残る思い出ができると思います。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる