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見誤る

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 私と一心さんが仲良くしていることを快く思わない犯人は容易にその尻尾を出してくれた。

 物珍しさから井戸をのぞき込んでいたら、
「あんた、目障りなんだよ。消えな」
 と背を押された。
「文子さん?」
「一心さんは私のものだよ。こっちは何年もかけて口説いてるんだ。あんたみたいな小娘が急に現れて、婚約者なんて認めないから」
「やめて」
 と振り向きざまに私は文子さんの手首を掴んだ。
「おいっ」
 と一心さんの大きな声も聞こえた。
 それは一瞬の出来事だった。握ったつもりの文子さんの腕が、体が、顔まで消えた。しゅっと、秒で。蒸発というよりは消滅。
「あっ」
 と発したのは私で、文子さんは声も出せなかったようだ。
「き、消えた」
 それを見ていたのは一心さんだけだった。一心さんが手を引いてくれたおかげで私は井戸に落ちずにすんだ。
 前、同じようなことがあったときは人ではなかった。文子さんも正確には人間ではない。しかし、私は人間をも消してしまうのかもしれない。
 そう思うと鳥肌が立って、体が冷たくなってゆく感覚だけ薄れゆく意識の中で感じた。
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