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見誤る

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 それからも私の所望する物を次々に用立ててくれた。が、ごっそりと盗まれる。地獄にも悪い人はいる。いや、鬼かもしれない。
「ここには鍵がかかる部屋がありませんからね」
 なぜか心角さんが申し訳なさそうに謝罪する。
「金庫に入れておくわけにもいかなんしな」
 というか、私が揃えてもらったものなど安価なものばかり。オイルはちょっと高いけど、タオルに蝋燭、キッチンペーパー等々。盗んだって、価値もないだろう。それでも一心さんが集めてくれたのだから、私の不祥事ではないが彼に対して謝罪した。
「ごめんなさい」
「そなたのせいでは。ドアを作って鍵をつけるか」
 と納屋を心角さんと見て回る。
「何事だい?」
「盗難騒ぎだって」
「一心さんが瑠莉ちゃんに買ってあげたものらしいわ」
 従業員さんたちまで興味本位に騒ぎ立てる。
 俗世でも盗みは罪だ。
 仕事の合間に納屋を片づけていた。いらない箱の大きさを揃えて、少しでも見栄えがいいように。一心さんが鍵付きの棚を買ってくれたが、女の私でも丸ごと盗めそう。
 しかし、ここは門と門の間。袋小路みたいなもの。地獄へ送られる人間は荷物を持ってゆけない決まり。持って行ったところで鬼に奪われるだけ。よって、この棚を盗む人などいないのだ。

 犯人探しをするつもりはなかったが、一心さんが防犯カメラをつけようかと悩んでくれて、そのことが更に犯人を刺激する。
 納屋がほぼ半壊。
「素敵だったのに」
 外から硬いもので殴打したようだった。おかげで中もボロボロ。
「いっそのこと小屋にしてしまう? ここは藁で直して…」
 私とは違って一心さんは絵が上手い。壊されたところをちょうどドアにして、きれいな建物を描いてくれる。
「いいですね」
 厄介な現世とは違い申請などは不要なのだろうか。あっちの世界ではおじいちゃんが物置きを作っただけで役所の人が来た。それも地域によるらしい。うちのほうはブロックの上ならば特に申請は不要らしかった。それでも口うるさい人がどこかに訴えるらしい。
 こっちでも門が開くときに地獄から逃げてくる人もいる。それを捕まえるのは役人らしき鬼ばかりではない。人が人を苦しめる。そういう世の中なのだ。
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