地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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「おや一心、こんな昼間からデートかい?」
 声をかけてきたのは初日に会った大女将と同じ顔のおばあさん。
「どうも」
 一心さんからしたらおばあちゃんの姉にあたる人なのにそっけない。
「相変わらず客商売のくせに愛想が悪いね。おや、あんたはマッサージがうまい子だったわね。よかったらうちで雇うよ。うちのほうが報酬もいい」
 そういえば、報酬もらってない。祖父と取り決めがあるのだろうか。苛々している一心さんには質問できない。
 そうだ、彼女の名前は名智さんだ。思い出したときにはもう彼女は帰ってしまっていた。
「仲悪いの?」
 私は聞いた。
「大女将が嫌うからなんとなく昔から条件反射」
「門の前のあんなにいいところに宿を構えているのだから、双方助け合ったほうが」
「俺もそう思うけど、若いときに男を取り合って大喧嘩したらしくて。あの二人のことだから本当に大昔のことだろうに、くだらん」
 その言い方が面白くて笑ってしまった。
「ぷっ、くくくっ。あ、ごめんなさい。私、笑い方変なんです。そういうことってきっと、時間が経つほどにきつく結んでしまった紐のようにほぐれないんでしょうね」
「そうかもしれないな」
 本人たちにしかわからないことなのだろう。それに巻き込まれてうんざりしている人もいるのかもしれない。
 出かけると言っても、芯しん亭からバス停までの通りを行って帰るだけ。土産屋のような店が多かった。
「そうだ一心さん、板とか売ってる店ありますか?」
 私の世界のホームセンターらしき店を探したのだが見つからない。
「こっちでは御用聞きの人がいて、調達してもらうんだ。発注なら請け負うが?」
 ずっと昔から続いていることなのだろう。
「そうなんですね。自分でいろいろ見てから決めようと思っていたので、椅子とか」
「椅子? ああ、お前がやりたいという店で使うものか? カタログならあるが、作るか?」
「作れますかね?」

 芯しん亭に戻って、エントランスの木の椅子に座る。
「こういう丸いものではなくて、長椅子? 一人掛けならひじ掛けも欲しいな」
 さらっと描いたのに伝わらない。
「絵、下手だな」
 私の絵を見て一心さんが笑う。
「すいません」
「いや、わかる。こんな感じなら簡単にできそうだ」
 一心さんもささっと図案を描く。
「ベンチみたい」
 という私の言葉が伝わらなかった。当然か。
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