17 / 99
見誤る
16
しおりを挟む
そんな気持ちのままでも一心さんと出かけたのは、本当に好きな人のことを話せるのが彼だけだったから。
「一心さんはどの奥さんが一番好きだったんですか?」
私は聞いた。
「開口一番、失礼なことを聞くなぁ」
と呆れてくれた。
「すいません」
甘味処であんみつを食べた。
「しかも、おいしそうに食べる」
「誰かさんを思い出す?」
「そうだな」
それは誰だったのだろう。きれいな人がいい奥さんになれるわけじゃない。愛した人から愛される人に私もなりたい。叶わない夢だ。
店先からバスから死人が降りてくるのが見えた。当然、みんな戸惑う。でもしょうがないかと地獄の門をくぐる。
「愛した人がいても死ぬときは一人なんですよね」
こっちにまで大きなバックを抱えている人がいるけど、地獄へ行ったら全部取られるのだ。
「夫婦一緒の人も来るけど、たいていは事故で、どっちかがどちらかに謝っていることが多い」
一心さんも人をよく見ている。
「そっか」
退屈そうに一心さんはコーヒーだけ飲んだ。
「甘いもの嫌いですか?」
私は尋ねた。
「嫌いじゃないけど」
「この粒あんおいしい。甘さ控えめ」
現代のものもあるにはあるが、厨房などは一昔前のものが多い。圧力鍋とかないはず。それなのにおいしい。どうやって作っているのだろう。
「こっちの暮らしには慣れたか?」
心配してくれているのかな。一心さんがコーヒーを口に運ぶ。鬼とコーヒーって結びつかない。あ、この人、半分は人間なのだ。
「慣れました。というか、びっくりしてます。金縛り皆無」
「は?」
「だってもう10日くらいですよ。私、こんなの物心ついてから初めてで」
おかげで体が軽い。疲れが取れる。
「そんなこと初めて聞いたけど、ここには怨念とかないからかもしれんな。地獄だから悪霊もいないし」
「そうかもしれませんね」
地獄は苦しさをひたすら受け入れるところだ。
空気自体はすがすがしくない。実家の庭のほうが心地いい。しかし、だからこそおかしなものが入り込んでしまうのかもしれない。
「一心さんはどの奥さんが一番好きだったんですか?」
私は聞いた。
「開口一番、失礼なことを聞くなぁ」
と呆れてくれた。
「すいません」
甘味処であんみつを食べた。
「しかも、おいしそうに食べる」
「誰かさんを思い出す?」
「そうだな」
それは誰だったのだろう。きれいな人がいい奥さんになれるわけじゃない。愛した人から愛される人に私もなりたい。叶わない夢だ。
店先からバスから死人が降りてくるのが見えた。当然、みんな戸惑う。でもしょうがないかと地獄の門をくぐる。
「愛した人がいても死ぬときは一人なんですよね」
こっちにまで大きなバックを抱えている人がいるけど、地獄へ行ったら全部取られるのだ。
「夫婦一緒の人も来るけど、たいていは事故で、どっちかがどちらかに謝っていることが多い」
一心さんも人をよく見ている。
「そっか」
退屈そうに一心さんはコーヒーだけ飲んだ。
「甘いもの嫌いですか?」
私は尋ねた。
「嫌いじゃないけど」
「この粒あんおいしい。甘さ控えめ」
現代のものもあるにはあるが、厨房などは一昔前のものが多い。圧力鍋とかないはず。それなのにおいしい。どうやって作っているのだろう。
「こっちの暮らしには慣れたか?」
心配してくれているのかな。一心さんがコーヒーを口に運ぶ。鬼とコーヒーって結びつかない。あ、この人、半分は人間なのだ。
「慣れました。というか、びっくりしてます。金縛り皆無」
「は?」
「だってもう10日くらいですよ。私、こんなの物心ついてから初めてで」
おかげで体が軽い。疲れが取れる。
「そんなこと初めて聞いたけど、ここには怨念とかないからかもしれんな。地獄だから悪霊もいないし」
「そうかもしれませんね」
地獄は苦しさをひたすら受け入れるところだ。
空気自体はすがすがしくない。実家の庭のほうが心地いい。しかし、だからこそおかしなものが入り込んでしまうのかもしれない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?

高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております
利家と成政 ~正史ルートVS未来知識~
橋本洋一
キャラ文芸
加賀百万石を築いた前田利家と、秀吉の命により非業の死を遂げた佐々成政。
史実に名を残した武将に転生した二人の男。
利家はまったく歴史を知らない元ヤンで、戦国乱世でも『正史』通り真っ直ぐ生きようとする。
一方の成政は歴史オタクの元ひきこもりで、自らの運命を『未来知識』で曲げて幸せになろうとする。
まだ尾張国を統一していない信長の元、犬千代と内蔵助として出会った二人は初対面で「こいつ大嫌いだ!」と嫌いになるが、徐々に互いを認め合うようになる。
二人は互いに影響を与えつつ、やがて日の本を東西に分かつ、大戦の大将へとなる道を歩んでいく。
※架空戦記です。史実と異なります。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる