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 数日後には凌平くんは賄いを任されるようになった。
「おいしい」
 とみんなに大好評。
「ハイカラな味がする」
 口うるさい仲居頭の文子さんの舌までもを虜にした。

 陸上部で一緒にハードルを走っていたのは8年以上前のこと。昔は平均寿命が50歳くらいなのだから、半分くらい生きられたかと諦めがつきやすいのだろうか。
 いや、いつの時代だろうと生きたいと願うものだ。その願望もこちらに来れば欲の罪となる。ややこしい。
 慰めたいけどどうにもならないから受け入れるしかない。凌平くんは料理をしていればきっと大丈夫。
「新人と親しそうだな」
 玄関の履きものを並べていたら一心さんが私の前で仁王立ちしていた。
「やきもち?」
「バーカ。お前は俺の婚約者なんだぞ、一応」
「そうでした。あまりに接点がなくて忘れていました」
 一心さんは芯しん亭でお客さんの予約やお金の管理をしているらしかった。
「お前、休みは?」
「明後日ですけど」
 私は答えた。
「じゃあ、出かけるか」
「は?」
「まだこの辺見て回ってないだろ? ま、行くところなんて限られるけど」
 それってデートなのだろうか。聞けなかった。
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