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見誤る
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こんな非日常な体験をしていても死ぬのは怖い。なぜだろう。漠然と植え付けられてきた思想のようなものなのだろうか。生きていたら死ぬのは当然のこと。
庭を掃除しているとつい藁の納屋に目がゆく。あんなにお洒落なものを放置するなんて、おかしい。勿体ない。さすがに厠でカフェというわけにはいかないから、掃除をすれば馬小屋でエステならいいだろうか。どうりで既視感があると思ったら、絵画の積み藁の形にそっくり。現代ならそれを売りにできただろう。あっちでは藁づくりでは修繕の必要があるに違いない。きっとこっちは酸素が薄そうだから残っているのだ。快晴ということもないし雨も降らない、いつもどんより曇り空。
積み藁の中をくりぬいて支柱を立てたのだろうか。雪のかまくらもそうやって作った覚えがある。ここには雪も降らないのだろう。
あっ、私また空を見上げてる。
「瑠莉ちゃん、一心さんが調理場に集まるようにって」
澪さんから声がかかる。
「はい、ただいま」
調理場では白衣の男の子が待っていた。
「宇崎凌平です」
その男の子には見覚えがあった。
「凌平くん?」
「菅原先輩?」
彼も私を覚えてくれていた。一つ年下の陸上部の男の子。
「知り合いか?」
一心さんが凌平くんに聞く。
「はい。え、先輩も死んじゃったの?」
「ううん」
私は修行とも言えず、まして結婚とも言えずに困った。
「先輩の家って神社だから、その絡みですか?」
凌平くん、そんなことまで覚えてるのね。
「うーん、まぁそうだね。凌平くんは?」
「ただの交通事故っすよ。赤信号を飛び出してしまったので自分のせいです。でも親より先に死んだからとか、昔ついた嘘とか悪口、その他諸々のせいであっという間に地獄行き決定でした」
「厳しいよね」
私たちが再会を喜んでいることを快く思っている人はいなかった。全員の視線が冷たい。
また会うことを約束して、私は仕事へ戻った。
「さっきの男の子、若くてかっこいいわね」
客室の掃除をしながら麻美さんが言った。
「そうですね。昔から爽やかでモテましたね。私のひとつ下だから22歳か」
「若いわね」
と麻美さんも凌平くんの死を嘆いてくれる。
庭を掃除しているとつい藁の納屋に目がゆく。あんなにお洒落なものを放置するなんて、おかしい。勿体ない。さすがに厠でカフェというわけにはいかないから、掃除をすれば馬小屋でエステならいいだろうか。どうりで既視感があると思ったら、絵画の積み藁の形にそっくり。現代ならそれを売りにできただろう。あっちでは藁づくりでは修繕の必要があるに違いない。きっとこっちは酸素が薄そうだから残っているのだ。快晴ということもないし雨も降らない、いつもどんより曇り空。
積み藁の中をくりぬいて支柱を立てたのだろうか。雪のかまくらもそうやって作った覚えがある。ここには雪も降らないのだろう。
あっ、私また空を見上げてる。
「瑠莉ちゃん、一心さんが調理場に集まるようにって」
澪さんから声がかかる。
「はい、ただいま」
調理場では白衣の男の子が待っていた。
「宇崎凌平です」
その男の子には見覚えがあった。
「凌平くん?」
「菅原先輩?」
彼も私を覚えてくれていた。一つ年下の陸上部の男の子。
「知り合いか?」
一心さんが凌平くんに聞く。
「はい。え、先輩も死んじゃったの?」
「ううん」
私は修行とも言えず、まして結婚とも言えずに困った。
「先輩の家って神社だから、その絡みですか?」
凌平くん、そんなことまで覚えてるのね。
「うーん、まぁそうだね。凌平くんは?」
「ただの交通事故っすよ。赤信号を飛び出してしまったので自分のせいです。でも親より先に死んだからとか、昔ついた嘘とか悪口、その他諸々のせいであっという間に地獄行き決定でした」
「厳しいよね」
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「さっきの男の子、若くてかっこいいわね」
客室の掃除をしながら麻美さんが言った。
「そうですね。昔から爽やかでモテましたね。私のひとつ下だから22歳か」
「若いわね」
と麻美さんも凌平くんの死を嘆いてくれる。
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