地獄門前のお宿で女将修行はじめます

吉沢 月見

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芯しん亭

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「おい、菅原瑠莉」
 と野太い声に呼び止められる。
「はい?」
 振り向くと大男に睨まれていた。
「門のところで待っていると言ったはずだが?」
「そうでした。すいません」
 ここへ来る前に長い地獄講習を受けたせいで、すっかり眠い。
 知らなかったのだが、ほとんどの人間が地獄へ来てしまう仕組みなのだ。嘘をつかない人なんていないもの。もちろん罪の深さによって違う階層へ行くことになり、悪いことした人ほど転生に時間がかかる。すっごく悪いことをした人間は転生からも除外されるらしい。
「芯しん亭の一心だ」
 と男が名乗る。
「祖父から聞いています。よろしくお願いします」
 頭を下げる私の手からバッグを持ってくれる。
「小さいな」
 荷物ではなく身長のことらしい。
「すいません」
 そっちがでかすぎ。じっと私を見下ろす。彼の履く下駄のせいにしたいけれど、私のスニーカーもそこそこ厚底。
 彼のうしろについて歩く。人と鬼の往来で離れてしまう。
「面倒な奴だ。釣書きだけではわからんな」
 と手を引いてくれる。

 この人は鬼と人間のダブルらしい。名前は一心さん。見た目はほぼ人間。角も牙もない。年齢は400歳らしいけれど、そんなに生きているようには見えない。人間だと25歳くらいの見た目だろうか。太ってはいないけれど、たぶんムキムキしている。背筋がすごい。と言っても作務衣のようなものを着ているからはっきりとはわからない。
 鬼は浴衣のような和装が多い。人間も死ぬときは大半が白装束を身につけられるけれど、三途の川を渡ってしまうとたぶん本人が好きな、或いは希望するリラックスできる服に変わる。
「歩くのも遅いな」
 ため息交じりに一心さんが呟く。
「すいません」
 ああ、こういう怒ってる口調の人って怖くて苦手。きょうだいも姉だけだし、祖父はちょっと短気だけれど父は温厚だからこの手のタイプと接点がない。背が高いから見下ろされている気分になるし。
 ここはなんだかいい匂い。おいしそうな。お団子屋さんだった。
「一心さん、寄って行ってよ」
「あら、珍しい。女連れじゃない?」
 周囲がざわっとして視線が一斉に私に向けられた。
「いやーん、一心さん」
「一心さんは私のものよ」
 とあちこちから悲鳴が上がる。
「おモテになるようで」
 敵意をひしひしと感じて私はこそっと伝えた。
「知らん」
 ぐいっと手を引く。大きな手だな。力も強い。こういう人、やっぱり苦手。鬼だから人じゃないか。
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