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ミスズが暇を取り、残念なことに誰も私の侍女に名乗りをあげてくれないらしい。私につくと畑仕事をさせられて爪が汚れると噂になっているそうだ。仕方なく、侍女長のソフィアさんが代行。
「クレア様に叱られませんか?」
「大丈夫ですよ。クレア様には他の侍女もおりますし」
ソフィアさんはアルゼット様のお母様が結婚したときからこの城で侍女として働いているという。
「すごいですね」
「長く働いているだけですよ」
それが難しいのだ。どの仕事も向き不向きはあるだろう。侍女って仕える人間との相性もあるだろうし、いろんなことに気が使えないと無理だ。
私は畑一択。耕して、種を蒔いて、育てて、剪定。追肥に、収穫、そしてまた耕すところから始まる。それひとつだって大忙しだ。かぼちゃだけでも大変。
うちの国は寒い季節と暑い季節しかないけれど、この国には中間が存在する。過ごしやすくて、雨期もちょっとある。
ソフィアさんは私が手を汚しても、爪に土が入り込んでも、
「あらあら」
と拭ってくれるだけ。目くじらような人じゃなくてよかった。
でも、これがクレア様ならば諭すのかもしれない。王女を教育するのは大変なのだ。うちは緩いけれど、他の国は違うらしい。王女だから、いずれ生まれ育った国とは違う国へ嫁ぐ。そのために出来得る限りのことを送り出す側はしてあげたいのだ。
ソフィアさんが私についたことでユウカ様は途端に気持ちが萎えてしまったという。確かに、ソフィアさんの存在感はすごい。城の重鎮だ。ユウカ様は朝食にも姿を現さなくなった。双子の侍女たちも帰り支度を始めている。
「私も、お邪魔虫ですかね。アルゼット様はちっとも私に興味がないようですし」
とソラカ様まで。
いや、待って。そんな理由おかしいと私は思った。裏で金品をソフィアさんあたりが渡しているのではないだろうか。でも私が王妃になってもソフィアさんに利点などない。競争心がそがれるようなことがあったのだろうか。
わからないから夜、相変わらずお疲れのアルゼット様に聞いてみた。
「だって、あなたの妻になるのは名誉なことでしょう? 自分の国の利益にもなる。最初に帰らされた女の子の中には戻ったら罰を受けると泣いていた人もおりました」
それくらい重大な任務なのだ。
「お前、意外と阿呆なんだな。いくら王帝の妻になれても愛されない相手なんぞ嫌だろう?」
「愛って、育むものですよ」
私は言った。
「ぶぁはははつ」
と今までで一番の大笑い。
「おかしなこと言いまして?」
それは唯一覚えている母様の教えだ。
「自分を愛してくれない相手とどうやって育む? 俺はお前がいいと言った。みんなはそれを受け入れてた。現状を理解していないのはお前だけだぞ、ルラル」
名前を呼ばれるのは二回目。でこチューの回数はもう数えていない。
ん? 王妃決定なの? 私が?
えっ、困る。私、そんな器じゃない。
「あのう」
「隣国との和平交渉で疲れているのだ。寝る」
とアルゼット様は布団にくるまってしまった。
え? もっと愛を語らったりしないの? 確か本にはそう書いてあった。
ほれほれ。ちょっと気恥ずかしいけど、聞いてやろうじゃないか。って、もう寝てしまわれた。この無防備な顔だけちょっと好きよ。
わからないから私も寝よう。
王妃になったら自国だけでなく恵まれない国にもかぼちゃを送るの。数ヶ月も日持ちするから船で運んでも平気よ。じゃがいもも持つけど、さつまいももおいしいけど、かぼちゃ最強って私は思うが芋のほうが世界の広くに知れ渡っている気がする。品種の差だろうか。芋は甘いものもあるし、私は油で揚げたのが好き。かぼちゃも揚げられるのかな。素焼きなら食べたことあるけど。
芋のほうが栽培は楽なのかしら。やっぱり受粉が面倒なのかもしれない。だったら、子づくりも面倒なの?
「クレア様に叱られませんか?」
「大丈夫ですよ。クレア様には他の侍女もおりますし」
ソフィアさんはアルゼット様のお母様が結婚したときからこの城で侍女として働いているという。
「すごいですね」
「長く働いているだけですよ」
それが難しいのだ。どの仕事も向き不向きはあるだろう。侍女って仕える人間との相性もあるだろうし、いろんなことに気が使えないと無理だ。
私は畑一択。耕して、種を蒔いて、育てて、剪定。追肥に、収穫、そしてまた耕すところから始まる。それひとつだって大忙しだ。かぼちゃだけでも大変。
うちの国は寒い季節と暑い季節しかないけれど、この国には中間が存在する。過ごしやすくて、雨期もちょっとある。
ソフィアさんは私が手を汚しても、爪に土が入り込んでも、
「あらあら」
と拭ってくれるだけ。目くじらような人じゃなくてよかった。
でも、これがクレア様ならば諭すのかもしれない。王女を教育するのは大変なのだ。うちは緩いけれど、他の国は違うらしい。王女だから、いずれ生まれ育った国とは違う国へ嫁ぐ。そのために出来得る限りのことを送り出す側はしてあげたいのだ。
ソフィアさんが私についたことでユウカ様は途端に気持ちが萎えてしまったという。確かに、ソフィアさんの存在感はすごい。城の重鎮だ。ユウカ様は朝食にも姿を現さなくなった。双子の侍女たちも帰り支度を始めている。
「私も、お邪魔虫ですかね。アルゼット様はちっとも私に興味がないようですし」
とソラカ様まで。
いや、待って。そんな理由おかしいと私は思った。裏で金品をソフィアさんあたりが渡しているのではないだろうか。でも私が王妃になってもソフィアさんに利点などない。競争心がそがれるようなことがあったのだろうか。
わからないから夜、相変わらずお疲れのアルゼット様に聞いてみた。
「だって、あなたの妻になるのは名誉なことでしょう? 自分の国の利益にもなる。最初に帰らされた女の子の中には戻ったら罰を受けると泣いていた人もおりました」
それくらい重大な任務なのだ。
「お前、意外と阿呆なんだな。いくら王帝の妻になれても愛されない相手なんぞ嫌だろう?」
「愛って、育むものですよ」
私は言った。
「ぶぁはははつ」
と今までで一番の大笑い。
「おかしなこと言いまして?」
それは唯一覚えている母様の教えだ。
「自分を愛してくれない相手とどうやって育む? 俺はお前がいいと言った。みんなはそれを受け入れてた。現状を理解していないのはお前だけだぞ、ルラル」
名前を呼ばれるのは二回目。でこチューの回数はもう数えていない。
ん? 王妃決定なの? 私が?
えっ、困る。私、そんな器じゃない。
「あのう」
「隣国との和平交渉で疲れているのだ。寝る」
とアルゼット様は布団にくるまってしまった。
え? もっと愛を語らったりしないの? 確か本にはそう書いてあった。
ほれほれ。ちょっと気恥ずかしいけど、聞いてやろうじゃないか。って、もう寝てしまわれた。この無防備な顔だけちょっと好きよ。
わからないから私も寝よう。
王妃になったら自国だけでなく恵まれない国にもかぼちゃを送るの。数ヶ月も日持ちするから船で運んでも平気よ。じゃがいもも持つけど、さつまいももおいしいけど、かぼちゃ最強って私は思うが芋のほうが世界の広くに知れ渡っている気がする。品種の差だろうか。芋は甘いものもあるし、私は油で揚げたのが好き。かぼちゃも揚げられるのかな。素焼きなら食べたことあるけど。
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