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ギターと三味線の中間のような楽器にも挑戦したが壊滅的。
「太鼓なら得意です」
と訴えたが、
「サンズゲイト国では女は太鼓を叩けません」
と言われ、そんな違いにびっくり。
シエ様が帰られてから妃選びが本格化したと思ったのか、たまにサラ様まで講義に顔を出すようになった。他の候補者にしてみれば、これらを全部終えてアルゼット様の兄上に嫁いだ人がまた私たちと同列というのもおかしな話。
そんな不満を言っている場合じゃない。私は右手と左手が同じ動きになってしまう単純脳。
サラ様は楽器がうまい。私があまりにも下手なので教えてくれている間に、サラ様が暑気にあたり、パタッと倒れた。
「誰かー、助けてー」
これでは私が彼女をいじめているようだ。抱えたときにその骨っぽさにどきっとした。
「サラ様? お水です」
侍女が口に水を注ぐ。
「ごめんなさい。私は涼しい国の生まれだから暑さに弱くて。もうあの国もサンズゲイト国の一部だけど」
その涙は国を想ってのことなのだろう。
「サラ様、健康第一ですよ」
私は言った。
「アルゼット様はあなたのような人が好きなんでしょうね」
「あの人は肉づきがいいほうが好きなのでは。いつも私のお腹の肉の辺を擦って寝ますもの」
「あなたのようなではなく、あなたが好きなのよ。あなた、太陽みたいだもの」
太陽って、すごく熱いんだよな。そして遠い。
「サラ様、お身体が治ったら畑に行きましょう」
と誘ってみたら、翌日には私の部屋まで迎えに来た。朝早くに、いつもとは違うラフな格好で。
だから、かぼちゃの雄花を摘んで雌花に受粉。雌花には実になる丸いものがついているのでわかりやすい。
「国を滅ぼされ、私は物心ついたときからアルゼット様の兄に嫁ぐことが決まっている人生でした」
とサラ様は話し出した。生まれ育った国を倒され、統一というよりは吸収。サラ様のお父上様も先帝に倒されたそうだ。恨みを抱えながらも、アルゼット様の兄と結婚をしたら幸せになれると思っていたのに、彼は悪政をやめない父を暗殺し、その罪で断首。
薄いサラ様の肩には重たいものがたくさん乗っているように私には見えた。支えてくださる方はいないのかしら。それがアルゼット様だとちょうどいいのかもしれない。
「楽しい」
とサラ様は飽きずに受粉を手伝ってくれた。歳を取った侍女が日傘を持って右往左往。邪魔だが、微笑ましい。
手話でトベールじいの従者ともすんなり意思疎通ができている。私もちょっとだけ覚えたところ。サラ様がいるとトベールじいは隠れるように作業をしていた。
「太鼓なら得意です」
と訴えたが、
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